316話 血晶女王その1
「山嶺都市グワイクラシェンは縦穴構造だ」
事ここに至って敵対する気もないだろうという判断で、グーンルンツには剣を返している。離れさせていたヒウィラとバスティも呼び戻して、四人で顔を突き合わせて話し合いだ。
自己紹介もそこそこに、本題は狂した妖精王ゼオラド・メーコピィを止める手立てについて。
「縦穴って言うのは、本当に真っすぐ穴を掘っているのかい?」
「ああ」
つまるところ目的地が変わることはない。俺たちは最初から山嶺都市に向かう以外の道はなく、その前にすったもんだはあれど事情通な案内人を得たと考えることにした。
「《地妖》は土と石をこよなく愛する妖属だ。それ以外には興味すら湧かないと言っていい。だから《地妖》の都市は希少鉱石の採掘できるここイルズォンド山脈にある。それも地下に」
「日の光は入らなそうだねぇ」
「それに何の差し障りがある。俺たち《地妖》にそんなものは不要。俺たちを《華妖》あたりと一緒にするな。要るのはつるはしの音と土埃。炉から漏れるだけで灼けつくような火の熱。そういうものだ」
「そうか……」
相槌を打ちはしたものの、理解できたとは言い難かった。《地妖》の生態にも《華妖》の生態にも詳しくなく、俺が知っているのは人族の日常のみだけだから。俺の当たり前からするとひどく不健康な印象を受けるが、雑に切って捨てるのは彼らの歴史に対する侮蔑だろう。俺に出来るのは今はこの程度の返事。
話を聞く限り、都市構造は大穴を中心に伸びる無数の横穴、支道からなるらしい。昆虫の中に似たような巣を作るものがいると聞くが、一緒にすれば烈火の如く怒るだろうことは目に見えている。俺は聞き役に徹する。
「
「ない」
「断言しましたね」
「過去百年、大きいと形容される地震が発生したことはない。そうでなければ地中に都市など作れん。……続けるぞ」
縦穴は年々その深さと直径を増し続けており、それというのもより鉱石資源を求めて掘り進めているからだという。それって安全的に大丈夫なのかと不安を覚えるが、採掘について素人も素人な俺が思う程度のことを、何百年も掘り続けて来た《地妖》が考えなかったはずもない。
常に拡張を続ける中心孔の、ではどこに妖精王は居を構えるのか。
───答えはシンプル。
「底も底、採掘の最前線を常に追いかけられるよう、移動する王宮を造り上げたんだ」
巨大な《石従》それそのものが妖精王の住処。水棲生物の一種を連想するような、足の生えた家───そこに、
「ゼオラドは居るんだな」
「ああ」
分かりやすいことこの上ない。つまり、山嶺都市に辿り着いたなら、縦穴を真っすぐに一番下まで降りて、底にいる《石従》の背を目指せばいいってことか。
薄く、ごく薄く舌なめずりしたのをヒウィラは見逃さなかった。咎めるように、
「ユヴォーシュ、貴方まさか無策で突っ込んだりしないでしょうね」
彼女は魔王城カカラムに突っ込んでこられた側だし、付き合いもそれなりになるから俺の性格ってもんを把握してきている。よく分かってるじゃないか、実は俺はまだるっこしいのは嫌いなんだ。
暴虐の限りを尽くした相手に今更礼儀作法もあったもんじゃないだろう。サッと行って話をつけてきちまおうぜ。
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