312話 暗底闘争その6

「……待て。今、ジーブルと言ったか? それは───」


「そうだよ、ジーブル・メーコピィ。俺の剣は彼が打ったものだ。……」


 ヒウィラの剣はその娘の手によるもの、とまで伝えるのは止しておく。どこからどう見てもゴタゴタしている山嶺都市の《地妖》に、《人界》で平穏に過ごしている半人半妖のあの少女の情報をくれてやって良いことがあるか? ないだろうさ。彼女は無関係であるべきだ。


 それよりも山嶺都市の内情把握だ。


「そろそろ名乗ってくれ。君は誰で、どうして《地妖》同士で殺し合ってるんだ?」


「──────」


 いよいよ彼の中で逡巡が大きくなっているのが見てとれる。俺たちがどうやら本当に山嶺都市グワイクラシェンについて何も知らないらしいと悟ったのだろう。


「俺……は、グーンルンツ。グーンルンツ・オストロワ。反王政の部隊長の一人だ」


「その王政ってのは妖精王ゼオラド……メーコピィが統治してるってことだよな、この、山嶺都市を」


「そうだよ。……お前、そんなことも知らないであの炎を差し向けてきてたのか……?」


 非難するグーンルンツの瞳が痛い。だってしょうがないじゃないか、《地妖》同士で争っているのを止めないと話し合いにならないと思ったんだ。結果はまあ……剣の製作者のせいでどのみち争いになっちまったが。


 俺はこの都市のことを何も知らないと改めて実感する。そのままにしておくわけにはいかないから、この際グーンルンツから洗いざらい状況を聞き出しちまおうと覚悟を決める。


「───そんで、お前さんたちの陣営は、妖精王ゼオラドに反旗を翻している、と」


 グーンルンツは頷く。その様を見て、俺はかつて《魔界》インスラで遭遇した反抗勢力レジスタンスたちを思い出した。


 大魔王マイゼス=インスラに抗うことを選択し、俺を陣営に引き込んできたアコランゼアとゴーデリジー。大魔王討伐のドサクサで挨拶する間もなく《魔界》インスラを立ち去った俺は、結局ろくに話もできずに別れたままだ。統一者たるマイゼスを喪失した《魔界》インスラはあのあと大混乱に陥ったことだろうが、無事でいるだろうか。世界すら異なる空の下、彼らが元気だといいなとほんのり思った。───色々あったけど、それくらいの縁だ。


「どうして王に逆らってるんだ?」


 俺には王の存在も、それに対する畏敬の念も分からない。何せ《人界》にそんな位はないし、似たようなものかなと俺が勝手に思っている信庁に対しても、の人みたいに盲従することはできなかった。だから類例から推察くらいしかなく、それにしたって理解は足らないだろう。


 一先ず挙げられる可能性としては、マイゼスに対するアコランゼアとゴーデリジーの如くに、前王の遺志を継いでのことか。王位が移動するのは王の死が主要な条件だと聞くが、それゆえ継承を目論む者がその手で王を手にかけることはあるのだという(ヒウィラから聞いた話だ。彼女は魔王を戴く魔族ゆえに、そういう話にはこの中で一番詳しい)。


 そう考えて発した俺の問いに、しかしグーンルンツは予想しなかった答えを返してきた。

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