308話 暗底闘争その2
「何です今の、新技ですか?」
「ああ……。そう言えば見せてなかったっけ、聖都での一件で必要に駆られてな。対人制圧用《信業》ってところだ」
「ちょっと目を離すとこれだ。油断も隙もありゃしない」
「というか、気軽に言ってますけれど───本当に、全く新しい《信業》ならばとんでもないことですよ」
ヒウィラがそんなに食いついてくるとは思わなかった。そこまで言うほどのことか?
そもそも全く新しいと言われるとちょっと待てとなる。
「別に、いつもの《光背》の変形さ。『光で物理的攻撃を吹き飛ばす』のを、『炎で精神的害意を焼き尽くす』に置き換えただけだ。そう大したことじゃない」
説明してもヒウィラは納得していない様子だった。そんな顔をするけれど、彼女の《信業》だって大概応用性が高いじゃないか?
「あのですね、私のはあくまでその時々の感情で出力内容が変化しているだけで、感情を出力するという根底は変化していません。貴方のその《光背》と……《火焔光背》ですか? それは、発露している現象が似ているだけでまるっきり別物でしょう?」
曰く、部位が違うようなものらしい。
ヒウィラの《信業》は例えるなら発声器官のようなもの。使い方次第で出せる音は千変万化、されど機能としてはそこ止まり。口をどう使っても、足でするように走り回ったり、心臓が全身に血液を送り出す機能を代行できない。
対して俺の《光背》と《火焔光背》は似て非なるもの。手と足は部位としては近似だが、実際にできること・やっていることは全然違うのと同じように、物質的拒絶たる《光背》と精神的停滞たる《火焔光背》は本質的に異なっているのだという。
「別に、手足みたいなもんなら元から生えてんだしそんな食いつくほどのこともないだろ」
「そうですね。本当に最初からあったのなら、まだ幾分かは上手でしょうね」
「え?」
ある日突然、自分には腕があるのだと教わっても、思ったようには動かせない。それこそ左手は利き手よりも不器用なように、《信業》だって精度はどれだけ使いこなしているかにかかっている。いきなりやったことのない動作を求められても上手くいかないのが常だという。
増してそれが“腕”ではなく、例えば“翼”だったりすれば。《火焔光背》が全く新たに増設された部位であるとすれば、使いこなせないどころか違和感で発狂しかねない暴挙だという。
「───そこまで言われることかなぁ」
やろうと思ってできただけのことだから、そこまで大仰に反応されるとこっちも困惑してしまう。メール=ブラウとの対峙は切羽詰まっていたから我武者羅で、アレをもう一度やれと言われればそりゃあ出来る自信はないが、
「済んだ話だし、俺はどうにもなってないし、いいじゃないか」
「……まあ、無事ならばそれでいいのですが。ただ少し驚いただけです」
ふい、と顔を背け、彼女は周囲を見渡すと、
「それでこの《火焔光背》、いつまで広げておくのですか?」
「それが困ったことに、解くと《地妖》たちが自由になっちまうからな。……どうしよう?」
「無計画過ぎる……」
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