305話 去林訪嶺その4
ウーリーシェンは「行けば木々もまばらになり、やがて荒れた岩肌ばかりになる。そうなれば《地妖》のテリトリーだ」とか言っていたが。
まさかそこまで辿り着くのに十日近くかかるとは。
せめて《倢羽》で林の外まで送ってもらえばよかった。……というか、この規模を林と表現するなよ、と八つ当たりしたくなる。今にして振り返れば、コリドーの前に発見した村、あれはコリドーに随分と近かったのだろう。
この十日弱、三人でひたすら歩き続けたから話題も尽きた。ヒウィラももう「疲れました」とすら言わなくなって毎夜一番最初に寝るし、バスティもどう見ても飽きている。
行けども行けども樹ばかりでは、そうなるに決まってる。
《妖圏》中を果てしなく覆い尽くしているのではないかとすら思ってしまうその林が、ついに途切れた。
「だからってコレが喜ばしいかと言われると、決してそうじゃないんだがな」
まばらになったと思ったらすぐに山裾に出て、俺たちが見上げた先には山嶺が聳え立っている。
───冗談みたいに高い。
それこそ子供が絵で描いたみたいな険しさだ。この中に都市を築くだ? 《地妖》でなければ一蹴すること間違いなしだろう。
「妖属って、体格的には小柄なのが多いのに、どうして《妖圏》は規模が大きいのでしょうね……」
「小柄だから、大きなものに憧れるんじゃない?」
「それは自分を踏まえた話ですか、バスティ?」
「一般論さ。ボクは憧れる必要ないからね」
風景が変わって少し元気が湧いてきたのか、二人で丁々発止を繰り広げている。山中の移動については考えることを放棄したのか、あるいはもう最初っから俺の《光背》任せにしようと踏んでいるのだろう。俺もあの峰を徒歩で登るなんて悪夢だと思うが、だからって《光背》で翔ぶのも疲れるんだぜ。
───まあ、馬車と同じようなもんか。俺だけ疲れるって点じゃな。そう考えれば諦めもつく。
「そこ、いつまでやり合ってんだ。《光背》乗せないぞ」
空から見下ろせない。上空に昇ってみても尚高い峰がそれを許さない。
とんでもない山脈だった。
生い茂る木々のような遮蔽物もなく、《光背》で空を飛び強化した視力で探し回ればすぐに見つかるだろうと見積もっていたのは甘かった。
「もうちょっと《光背》広げられませんか。あと、床面を平らに」
「文句言わないで探せよ、見落としたら目も当てられないんだぞ」
「飛行速度落としておくれよユーヴィー、この速さじゃボクはちょっと厳しいぞ」
すったもんだはあれど、見つけないワケにはいなかい俺たちは必死になって探す。毎日朝から日暮れまで、目を皿のようにしてくまなく捜索する。魔獣も出ない山の中、設営もおざなりにキャンプをやって過ごす日々。
変わりがあったと言えば、ついにヒウィラが炊事をするようになったことだ。何でも「ユヴォーシュに任せておくと串に肉を刺して焼いたものしか出ない」というのが不満らしい。俺は別にそれでもいいので、文句があるならじゃあやってみろと言ってみたら本当に始めたので仰天した。
最初の夜は酷かった。率直に言って俺以下で、まず噛み千切るのと飲み込むのからして困難な代物をお出しされた。これが連日続くようなら戻すかと思っていたら、あれよあれよという間に腕前を上げてしまって、これまた仰天。
炊事担当は完全にヒウィラに固定されてしまい、罷り間違っても俺にお鉢が回ってくることはなくなった。仕事の一つを受け持ってくれて楽になった反面、こうもあっさり追い抜かれると寂しいような気もする。だがまあ、旨いってのは正義だ。
ヒウィラの調理の腕前が上達するくらい探し回っても、
山嶺都市は、さっぱり見つからない。
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