304話 去林訪嶺その3
「やれやれ、心臓が止まるかと思ったねぇ」
「ないだろ、義体なんだから。というか神聖騎士のフリをする羽目になったのも元を糺せばバスティのせいじゃないか。なに他人事みたいな顔して聞いてたんだ」
「そだっけ? いやぁ忘れちゃったなそんな前のこと」
すっとぼけるバスティをじろりと睨みつけると、彼女はくすぐったそうに笑って返してきた。
コリドーを警護する任についているという兵たちに送り届けられて、俺たちが今いるのは里の外れ。俺たちの背後(かつかなり上空)には《幽林》があるはずだが、妖精王による隠匿結界が作用して全然そんな気配はしない。
故に妖精の隠れ里、《幽林》のコリドー。
再び訪れる機会はあるだろうか。魔王城カカラムよりはありそうだが、聖都イムマリヤよりはなさそうだ。その気にならなければ訪れることはないだろうけれど、その気になったとして門戸を開いてくれるのやら。
まあ、出て来たばかりで考えることでもない。
考えるべきは目的地、山嶺都市グワイクラシェン。待ち受けるは《地妖》。
詳細が何も分からない地ということで、必然緊張感も高まっている。なまじコリドーでゆっくりと腰を落ち着けられてしまったが故に、もう一度よしと勢いをつけて出発することのなんと大変だったことか。
「───あ」
ずっと喉元に引っかかっていた何かに、いま気づいた。
宴の夜、ウーリーシェンと交わした会話。思えばあれは、最初は『バスティの正体は何だ?』という妖精王の問いかけから始まった一連の流れだったはず。それが途中で《神々の婚姻》の話に逸れて、その逸れた先の話があまりにも大きく重すぎたために前提の疑問を完全に失念していた。
明らかにできるかと思ったのに、結局、バスティのことが何も分かってねえ!
むしろ、
小神たちもかつては人間だった、とニーオは語ったという。小神になるにあたってどれほど精神構造が変化するかは分からないが、話していてもさほど違うようには感じない。つまり彼らの魂を納める神体とは魂の座に過ぎず、極論で言えばそれこそ誰の魂であっても───小神の魂でなくとも───納められるのだ。神ならざる《真龍》が《冥窟》の核に意識を転送して、そこから龍体を操り《人界》を侵攻せんとしているのも、同じ原理。
つまり神体に宿っているから神という理屈は通じない。
彼女が何なのかはまた別のアプローチから調査・分析する他なく、考え付く手段は二つ。
一つはバスティの記憶が戻るのを待つ、というこれまで通りのもの。これは積極的にどうにかできるものではないから、戻れば幸いくらいの心構えでいた方がいい。
もう一つは、それに対して外部的なアプローチ。バスティが分からないなら、バスティを知っている者を探せばいい。
───バスティによろしく言っといてくれ。
まさに現在進行形で俺が追いかけているケルヌンノスの言い残した台詞。あれがあるから、彼を追わないといけないという決意は一層固いものとなる。
待ってやがれあの野郎、知ったフウな口を叩いたことを今に後悔させてやる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます