303話 去林訪嶺その2
「グワイクラシェンか。その方らが行きたいというなら止めはせんが、あまり勧めはせんぞ」
「どういうことだ?」
辞去を告げに訪ねた居館で開口一番、ウーリーシェンは渋面でそう告げてくる。
彼が別れを惜しんで駄々をこねるような人格であるはずがない。何か事情があるのだろう。ただし、よほどの問題でなければ俺たちは山嶺都市を避けては通れないのだが。できれば些末事であってほしいと願いつつ、そんなことで妖精王が顔を曇らせることもないだろうと観念はしていた。
果たして、
「元来、余ら《樹妖》と《地妖》は友好的とは言い難い。さりとて敵対もしていないのだが、あえて交流を持とうとはしてこなかった。───それが仇となった」
「何があったんだい?」
「それが分からないのだ。今や《地妖》は今までにも増して都市に籠り、訪れる者を拒絶している。その方らが向かっても徒労となるか、あるいは迎え撃たれるか」
ここに来るまでも捕縛されたりはしたが、幸いにしてウーリーシェンが話の分かる妖精王だったから大事にならずに済んだ。毎回そんな幸運を期待できるわけはないのは承知しているにしても、内情が全く知れないが交流が断絶している都市に潜りこむのは、腰が重くなる。
……だからって泣き言をいうのはヒウィラに失礼か。彼女はそれこそ、《魔界》を出てからこっちずっとそうなんだから。たかだか一度や二度でへこたれてたら彼女はどうなる。
「……まあ、どうにかなるだろ」
「ほう? 恐れ知らずだな」
「別に怖くない訳じゃないさ。ビビって動けないのは不自由だろ? それが嫌なだけだよ」
「そうか。どうあれその方の選択だ、止めはせん。さらばだユヴォーシュ、騎士ならざる《希術師》よ」
ああ、と頷いて謁見の間を後にしようとして───彼の言葉を遅れて理解した俺はぎくりと硬直する。
恐る恐る、首の関節が錆びついたんじゃないかと疑わしくなるくらいゆっくりと振り返ると、予想に反してウーリーシェンは怒りを見せてはいなかった。しようのないと言いたげに首を振りながら、
「謀れると思ったか、全く。余はかつて騎士と旅をした身、その方が
つくづく、返す言葉もない。小神や魔王に相応する者であり、何百年も前の《神々の婚姻》を見届けた生き証人でもある彼。出会ったときは予想だにしなかった彼の凄さを、俺は別れ際になってようやく思い知ったのだった。
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