300話 神聖詐劇その5
「───それで、どうなったんだ?」
「その後のことはよう知らぬ。目覚めてみればどことも知れぬ場所、見知った友はどこにも見当たらない。探そうにも《人界》は混乱の極みであったし、余はそれ以上留まることを許されぬ身分であったのでな。結局そのまま《妖圏》へと帰還して、以来一度も訪れることはないまま今日を迎えたわ」
その後のことはその方がよほどよく知っているはずであろ、と突き放す妖精王。
俺は知っている。二つの隣接世界はそれで接合され、《人界》ヤヌルヴィス=ラーミラトリーとして今日に至ることを。
なるほど、ウーリーシェンが体験した通りなら、そしてそれをありのまま語っているなら、確かにそれは惨劇と呼ぶにふさわしい。よくもまあ《神々の婚姻》など呼ばわったものだ、当時の神聖騎士筆頭が誰だか知らないが───そいつほどの詐欺師は《九界》探してもそうはいまい。
思えば奇妙な点はあちこちにあった。
『大神ヤヌルヴィスと大神ラーミラトリーによる婚姻で、二柱のものは互いに共有されるようになった』だ? だったらどうして、必ずヤヌルヴィスから先に呼ぶのが慣習になってるんだ?
ラーミラトリー側に属する小神が陰神で、ヤヌルヴィス側の小神は陽神なのはどうしてだ?
《神々の婚姻》なんて言うわりに、祝う祭の一つもないのは何故なんだ?
───死するラーミラトリーの遺産を、どさくさ紛れにヤヌルヴィスが相続したから。どこが婚姻だ、こんなもの遺産詐欺じゃないか。
「いくら何でも、そりゃあないだろう」
《人界》の多くの一般人が祈りを捧げるのは、最終的には大神である。遠く感じる大神へと祈りを届けるために、身近なイメージを抱きやすい小神を経由しているのが実情なのだ。そして、その大神とは陰も陽も一括りに『大神ヤヌルヴィス=ラーミラトリー様へ』と宛てる場合が多い。
それなのに、その大神が半分はもういないなんて。
「そりゃあ理屈は分かるさ。《真なる異端》と大神が相討ったから《人界》が滅びかけて、どうにか別の大神が事態を収めましたなんて歴史書には書けない。そんなことをすれば大神と信庁の権威はガタガタになる、それならドでかい嘘で騙しちまえばいいってのは賢いと思うよ。でも……」
「どうあれ余の友が守ろうとした《人界》ラーミラトリーは続いた。余はそれで良い」
厳かに断ずるウーリーシェンの言葉には年月の重みがこもっていた。……きっと、彼も悩んだのだろう。彼は《妖圏》を離れられずとも、他の妖属を通じて《人界》の情報を得ることはできる。人づてに《神々の婚姻》という名を知って、俺が今思っているようなことはあらかた考えたに違いない。その上で出した彼の結論、彼の自由。
なら俺は俺なりに悩んでみることにする。俺は俺で好きにするさ、別に構わないだろう?
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