297話 神聖詐劇その2
余は訝しんだものよ。そのころの《人界》ラーミラトリーはなかなか入り組んだ情勢をしていたのは確かだが───大神が光臨するほどのことがあろうか、と。
当時、《人界》では奇妙な団体が蠢動しておった。新たな神を立てると戯言を流布し、賛同者を集めて何やら怪しげな魔術を執り行っているとな。余の道行きもそやつの尻尾を追うものであった。結局のところ余らが止めるより先に大神ラーミラトリーが光臨したのだから徒労だったのかもしれないが、今さら追及するも詮無きこと。
それよりも大神よ。《人界》でラーミラトリーが光臨したということはそれ即ち《真なる異端》の出現に他ならない」
俺は噎せた。
上質な酒が器官に入って苦しい。涙が出るまでせき込んでも収まらないので、俺は仕方なく《光背》を使って流入した液体を弾き飛ばす。周囲の人に気づかれて騒ぎにならない程度には早業だ。
呼吸困難になって顔を真っ赤にしている場合じゃない。それよりももっと聞き逃せないワードが飛び出したから。
───《真なる異端》。
「驚いたな、大丈夫か? 今のはその方の《信業》か───せき込んだだけで使う者など初めて見た。ふふ。にしても何に驚いているのやら」
「いや……ちょっとな。《真なる異端》の出現が、大神光臨のトリガー?」
「そうとも。神の愛の証たるしるし。それを完全に持たぬままに《希術》を扱うものを、神々は赦しはしない。真体の顕現で以て滅ぼすのみよ」
「それ、は───《真なる異端》出現と、同時に?」
「そうとも。一刻の猶予もならん事態であれば、世界そのものたる大神はそれと勘付いて光臨できるよう法則に定められている。───人族というのは実に道理を知らんな。言い伝えておらんのか」
「…………」
ウーリーシェンは俺を神聖騎士だと思って話しているからそう聞いてくるのは当然で、それに俺が返せる言葉は皆無だ。俺の真実は神聖騎士ではなく独立した自由人であり、仮に信庁内で言い伝えているとしても俺が聞ける術はない。さんざ勘違いに乗っかって恩恵を受けておいて今更告白したら大変なことになるから、俺はひたすら黙ってやり過ごす。
脳内ではいくつもの思考が光の如くに駆け巡っていた。
───《真なる異端》とはそれほど危険視される存在だったのか。《信業》を使える異端というだけじゃないのか?
───俺は大神と鉢合わせたことなんかない。《真なる異端》じゃないからか? でも《信業》を授かってるし神のしるしはない。何か定義が違うのか、それとも状況が特殊だったからか。神すら見放した《枯界》で覚醒したから、とか?
───ロジェスが「信庁の歴史にない」と言っていたのは、分かって言っていたのだろうか? 大神の死の事実は公的な発表や資料からはそりゃあ削られるだろうが、その発端に《真なる異端》がいた、などと。……知っていたに決まっている。だから俺をあれだけ迅速に《虚空の孔》刑に処したのか。
多くの情報が繋がり、更に多くの謎が生まれる。
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