289話 幽林夜会その2
「……余計なお世話だ。二人も支度は万全か?」
「もっちろん。御覧よユーヴィー、この立ち居振る舞いを! 改めてボクの小神としての正統性を認めるに至ったんじゃないかな?」
「バスティの見てくれがいいのはカストラスの手柄だろ胸張んな。その様子だとバスティは問題なさそうだな、ヒウィラも……」
言いながら見返して、俺は一つ気づいたことがあった。
彼女はピアスを外していた。人族のように偽装する《遺物》をつけていないから、必然魔族の───《悪精》の姿がいわば剥き出しだ。そっちの方が気楽ではあろうが、周囲の妖属たちから冷たい扱いなんか受けていないだろうか。
俺の視線で何を言いたいのか感じ取ったのか、ヒウィラは自らの
「ああ、これですか。
彼女の信仰は証明された。他ならぬ妖精王、《幽林》のウーリーシェンその人が保証した事実を彼の眷属たる《樹妖》が疑うことはありえないのだという。人族における信心の自己否定───神誓の破談に類似した性質があるため、逆に一度受け入れられれば大っぴらに《悪精》の姿でいても咎められることもなければ嫌そうな目を向けられることもないのだそうだ。
性格で割り切っているというよりは生態で受容するようで、俺は群体構造のような異質さを覚えて好きになれない。だが当人ではない俺の好き嫌いより、ヒウィラの過ごしやすさの方がよほど重要だ。隠すことなくありのままで過ごせるという点で、ヒウィラはかなりコルドーを気に入っているらしい。
「メイクに関しては私自身アドバイスしました。やはり《悪精》の肌にどう粉を乗せるのがいいかは、《悪精》たる私が一番よく知っていますから」
「まあ、そりゃそうだろうな……」
ヒウィラはヒウィラで胸を張らないでほしい。容貌可憐なれどもちんちくりんなバスティと違って、彼女の大きく開いた襟ぐりでそれをやられると、その何だ、目のやり場に困る。
「ちょっと、聞いているのですか。何ですそのどうでもいいと言いたげな相槌は。ちょっとユヴォーシュ、こちらをちゃんと見なさい」
あまつさえ俺の生返事に気を悪くしたのか、ぐいぐいと接近してくるな。俺はまだ吊橋の上なんだ、辺りは暗くなってきて足元覚束ないんだ、いや落ち着け俺は夜目くらい効く、そういう話じゃなくてだな。
「ッ、そんな恰好であんまり寄るなヒウィラ! お前今自分がどんな服着てるか忘れたのか!」
叫んだ俺の言葉にヒウィラは距離を詰めるのを止め、無表情に自分の姿を見下ろし、俺に向き直って、
にんまり笑った。
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