285話 幽林訪客その6
幸運なことにウーリーシェンは納得してくれたらしく、一つ大きく満足げに頷くと、手で合図を出す。俺たちを取り囲んでいた連中はさっと武器の狙いを俺たちから外した。
バスティがほっと胸を撫でおろす気配がする。ヒウィラの方はまだ緊張が解けていないからそんな動きもできない。
「不躾な真似をしてすまなかった。改めて歓迎しよう、騎士ユヴォーシュ。如何な用向きで参ったのだ?」
「ちょっと待ってくれ。その『騎士』ってのは───」
「ん? 《人界》の《希術師》はそう呼ぶのであろ?」
悪気なくそう言われると流石に言葉に詰まる。確かに俺は《希術師》───《信業遣い》だし、基本的に《人界》で《信業遣い》に目覚めれば信庁の管轄下に入って神聖騎士になるから間違ってないんだが、……さて、どう訂正したものか。
そう考えて「あー……」とか場当たり的な相槌を打っていると、
「そうだよ」
「おい!」
横入りしてきたバスティがざっくり肯定してしまった。ウーリーシェンも「そうであろ」と納得してしまって、これじゃ訂正が面倒じゃないか。
そんな俺の思考に割り込んで、
『よく考えなよユーヴィー。説明して何か得があるかい』
『いや、でも』
『あちらさんが勝手に勘違いをしているんだ。乗っからせてもらえばいいじゃないか。───それともそんなに嫌かい? 神聖騎士と間違われるのが』
『…………』
図星だった。
信庁も神聖騎士たちも彼らのすべき仕事をしているだけだから、俺は彼らに悪感情は抱いていない───そう思っていたのは浅慮だった。必然の誤解から神聖騎士と勘違いされるとこんなにも───我慢がならない。
だからって今更否定して説明する時間があるかと言えば、もう遅い。妖精王ウーリーシェンは俺が神聖騎士である前提で話を進めてしまっているから、それを遮る必要がある。そこまでして俺が神聖騎士ではないと釈明しても、得られるものは俺の自己満足のみ。妖精王がトントン拍子で俺たちを受け入れてくれたのはどうやら一重に俺が信庁から遣わされた神聖騎士であると誤認しているらしいから、騙されたと気分を害せば事態を悪化させかねない。
顔に出すわけにもいかず、俺は話を聞きながら内心で自己分析をしてみる。議題は、どうしてこれほど神聖騎士と思われたことが腹立たしいのかについて。
思うに、それが今や俺のアイデンティティの一部として根付いてしまっているからではないだろうか。《信業》に
裏を返せばそれくらい、神を信じることは身を捧げることという深層心理が働いているのか。……理性的に考えれば見知っている聖究騎士たちはどいつもこいつも自分勝手なのに、どうしてそんな風に感じるのか疑問だったが。
「……おい、聞いておるかユヴォーシュ」
「あ、ああ。済まん、何だって?」
妖精王に睨まれたとあっちゃあ、話半分に聞いているわけにもいかない。俺は思索を打ち切って意識のピントをウーリーシェンに戻す。
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