281話 幽林訪客その2

「目を開けていいぞ」


 目隠しを外されるとともにそう告げられても、申し訳ないが俺は目で見る以上に《光背》で感じている。ここまでの道のりとかの隠したいことも詳らかに知ってしまっているが、悪用するつもりはないから安心してほしい……とも言えないのがもどかしい。


 後手の拘束以外を外されて、俺たちがいるのは小部屋と言っても差し支えない一室。俺とヒウィラとバスティの三人で過ごすには随分とスペースが不足していて、おそらくこれは小柄な《樹妖》にちょうどいいんじゃないだろうか。思えば《倢羽》も俺には一羽専属でついていて、《樹妖》が背に乗る分には二人乗りだった。背丈も人並み以上にはあるし、鍛えているから筋肉で重いだろうというのは納得できるんだが、でも明確にお前は二人分だと示されると引っかかるものはあるんだぜ。


 冗談はさておき、どうやらここは牢屋らしい。


 窓もない、出入り口も狭い、そして外には二人の《樹妖》が立っている。招かれていないのにやってきてしまったから歓迎されないのは当然だろう。


 俺は《光背》を薄く展開する。


 感知網はこの建物の外で交わされる二人の会話を拾ってきた。その内容から察するに、


「……揉めてるみたいだな」


「あ、待って待ってユーヴィー。こういうときは」


 バスティが俺を制止すると、何やらぼそぼそと詠唱する。それが終わると同時に、


『これで良し。双方向で念話を繋いだから、会話はこっちでやろう。きっと聞かれてることだろうしさ』


『……そう言えばカストラスから習ったって言ってたな、魔術』


『これなら盗聴の心配はないのですか?』


『いやいや、やろうと思えば傍受くらいは可能だよ、付け焼刃だから。でもただ口で喋るよりはマシだろう?』


 魔術の中でもメジャーな念話は、傍受や妨害……各種干渉のバリエーションも豊富だと聞いたことがある。それに対するセキュリティ向上と、更に干渉する手段と───要するに鼬ごっこで、魔術について理解の浅い俺たちにはそこまでは到底不可能だからある程度の段階で見切りをつけるしかない。


『《樹妖》は俺たちを里に入れたのが浅慮だったんじゃないかと危惧してる。記憶を消して追い出すべきだって意見と、妖精王の指示を仰ぐべきだって意見で割れてんな』


 処刑すべきだ、みたいな話は出ていない。《妖圏》に到達した人族に対して無闇に手を出せばどうなるかは彼らも理解しているのだろう。むしろ記憶を消すなんて突飛な手段が出てくるとは。《信業》か魔術か、あるいは別の手段があるのだろうか? 《光背》で感知できないものでないといいんだが。


『薬でも何でもボクには効かないさ。何かあったら教えてあげるから、二人は休んでなよ』


『こういうとき義体は便利でいいな』


 気を張り続けてもいざというときに疲れていては役に立てない。俺はバスティの言葉に甘えて仮眠をとることにした。両手を頭の後ろで組んでごろりと寝っ転がって、


「……もうちょっと足伸ばしたらダメか?」


「そんなスペースがあるとでも?」

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