275話 妖圏迷走その3
《人柱臥処》でもやったように三人一緒になって《光背》でふわり浮き上がる。原理としてはまず俺自身が宙を移動し、その動きに《光背》が付き従うことでその中にいる他の存在も付随する流れ。ふっと思い立って解くと大変なことになる。
樹上が高すぎて遠すぎて、しばらくは眼下に遠ざかっている地表との距離感だけで移動しているのを実感しなければならないほどだった。やがて繁る樹上まで辿り着いたが……果たしてどれくらいの距離を移動したのか。かなりの速度を出していたはずなのに、ヒウィラが暇そうにするくらいにはかかったらしい。そんな目で見ても俺のせいじゃない。
がさがさっ、と。
「わぁっ」
「これはちょっと……《人界》じゃ見られない景色だな」
茂みをかきわけて出た森の上からの風景は壮観の一言に尽きる。辺り一面見渡す限り深緑の絨毯が広がっているようで、しかし合間合間に緑を支える柱のような幹が見えている。
上昇をストップして《光背》の形を変える。俺たちを包む球から俺たちの足元を支える円形へ変形させることで、不安定に浮いていたのを自分の足で立てるようにした。
ヒウィラとバスティは《光背》で形作った足場に着地して、どこか居心地悪そうに緑色の地平線を見渡す。
そう、彼方まで緑の途切れることはない。見えるのは青い空と生い茂る枝葉ばかりで、高度を考えれば当然とはいえ人工建造物は見当たらないのだ。この長樹の森のド真ん中に出てきてしまったらしいと突き付けられるとゲンナリして、もう《人界》に引き返してしまおうかという気分になってくる。
無論そういうわけにもいかないので、精一杯の悪足掻きを。
「どうにかして人のいるところに出たいな……。バスティ、感知できるか?」
「無茶言わないでくれよ。ボクが感知できる人は見知った人だけ。この《妖圏》にそんなもの、いるはずがないだろう?」
「いるかも知れないだろ。ちょっと試してみろよ」
俺がバスティと阿呆な会話をしている間も、ヒウィラは地平線の彼方にじっと目を凝らしている。やがて目頭を揉み解しながら、
「……あちらの方角に何か見えているような気がします」
「ホントか。当てもないし、ひとまず向かってみるか」
「やれやれ、行き当たりばったりな旅だねぇ。まあボクは構わないけど、この調子で見つかるのかね」
それは俺も、甚だ疑問ではあった。
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