264話 火焔葬送その1

 ───出会いはありきたりなものだ。


 両親が知り合いだったこと。


 生まれた時期がそう離れていなかったから、子育てでも先輩であるウクルメンシル家を頼ったのがきっかけだ。


 互いの親が見守る中、おそるおそる対面させられたニーオリジェラは、向かいの少年を見てもさほど興味が湧かなかった。


 同年代の幼子に会うのは初めてだったが、別にどうということもない。ぼーっとこっちを見ているこいつが何を考えているかは知らないが、どうせ大したことは考えていないんだろう。それでも親が仲良くなることを期待して会わせたのだから、まあ通り一遍でも挨拶くらいはしておくか、なんて大人びた考えをする少女だった。


「アタシはニーオリジェラ。ニーオでいいぜ」


「ニーオ……。そっか、ニーオか。うん、よろしく」


 少年は案の定腑抜けた調子ノリで、名乗ることもなく一人勝手に納得している。この頃から既に激しやすい性格だったニーオは、むっとして、


「お前は誰だよ」


「え? ああ……僕は───」





◇◇◇






「ぼうっとするな、ニーオ」


「あ? アタシがいつぼうっとしたよ。あの馬鹿じゃあるまいし」


 シナンシスの義体がいくら特別製といったって、《信業遣い》の全力に追随できるほどの性能は持ち合わせていない。よって道案内させるには必然その走力をセーヴしなければならない。一人で突っ走っても迷うだけだから仕方ないとはいえ、ずっとこうだと流石に焦れてくる。


 いっそ背負って走れるくらい肉体派だったらこんな焦燥感を味わわなかったろう。ニーオは祈祷神官上がりの《信業遣い》であり、前線に出てバチバチに斬り合うような連中ほどには体力がないのだ。現に今も、走り通しでかなり気力と体力を奪われていた。少し前から《人柱臥処》の主たるルーウィーシャニトが手管を変えてきて、ひたすらに退屈な回廊を走り続けているのもその労苦を加速させる。


 シナンシスに言われて咄嗟に返したのも、実際に朦朧として思い出していたから。そうでなければのことなど口の端にも上るまい。


 ……こんな大詰めで、今更ユヴォーシュのことを考えていたのでは笑い話にもならない。今日という日のためにどれほどの時間と労力を注ぎ込んだか、もはや彼女自身でさえ把握できていない。すべてはこの日のためにあったと断言できる言わば生き甲斐なのだ、この仕掛けは。


 しくじるつもりはないが、しくじるわけにはいかない、というほど気張ってはいない。神殺しは彼女にとってどこまで行っても腕試しの範疇なのだ。全力であることと必死であることは違っていて、彼女は自然体で全力を発揮するつもりでいる。


 逆に腕試しのつもりで神殺しそんなことをしでかす禁忌のなさ、嬉々として命を懸けてしまう躊躇いのなさが彼女の真の強みであり、最も恐れられる点でもあった。


 彼女の神髄が発揮されるまで、あと僅か。導くシナンシスが誰より敏感に終着点に近づいているのを感じているから、道中の口数が減っていく。

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