257話 混迷臥処その4
疾走するニーオ。目前に障壁がせり上がり通路が閉鎖されるのを意に介さずに突っ走りながら、
「邪魔だッ!」
一吼えすると彼女の周囲に滞空していた火球の一つが壁に激突して爆発、あっさりと破ってしまう。
彼女は走るのを止めることも、速度を緩めることもなかった。できたばかりの大穴に飛び込み次の壁を同様に破壊しながら進み、そうこうしている間に、
「おっ、師匠にシナンシス。無事だったみたいだな」
「そちらこそ元気が有り余っているらしいな。……札はもう切ったのか」
「ああ。温存する気もなかったが、流石はルーウィーシャニト。こうでもしないと出だしで詰みだった」
《人柱臥処》に入ったら早い段階で《真龍》を解放し混乱を引き起こすのは計画通りではあった。だが突入直後に分断され、一人圧死させられかけるのは予想外。合図もなく《真龍》を解き放ったため、向こうの連中は無事かなと心配する気持ちもなくはなかったのだ。
彼女にとっては幸いなことに、《年輪》のヴェネロンと占神シナンシス、それと彼女の計画に賛同して同行している神聖騎士たちにも欠員はいなかった。ルーウィーシャニトがまずニーオを潰すため、また小神たるシナンシスに手を出すことを避けたため、彼女以外の者を隔離していたためだ。
だがここからはそうもいかない。《真龍》による妨害もどこまで期待できるか予想は困難だから一刻も早い最奥への到達が望ましい。合流を優先したのはそのためで───
「シナンシス、お前はどっちにいる?」
「あちらだ」
刻一刻と組み変わる《冥窟》の構造に対しての踏破方法がこれだ。シナンシスの神体は常に《人柱臥処》最奥にあり、そこから義体を動かしている以上、彼には神体がどこにあるか把握できる。どのように組み変わろうと、その感覚に従えば絶対に迷うことはない。
シナンシスがいることで迷わせることは不可能になるが、ルーウィーシャニトに小神を強引に排除することはできない。シナンシス当人を直接的に攻撃することは心情的にできず、かといって再び隔離しようとしても、今度はそれに備えたヴェネロンが全ての罠を壊してしまう。
このままでは早晩辿り着いてしまうと判断した《冥窟》の主の打った手は、激烈だった。
「───っと」
先頭を疾走していたニーオが停止する。その後ろにぴったりついていたシナンシスも、ヴェネロンも神聖騎士たちも、その先の広間に誰がいるか見ずとも分かった。
猛烈な剣気が見えるようだ。
「───ロジェス」
「お前たちは反逆者として裁かれる。弁明は……まあ、どうせ聞かない」
せっかく大手を振って斬れる名分が整ったんだ、と呟く彼は既にバスタードソードを抜いている。
話し合いで収められる空気ではない。覚悟を決めるしかなかった。
そしてニーオは、ずっと前からその覚悟を決めていた。
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