254話 混迷臥処その1
嵐と地震と噴火というふうに喩えたのは直観的ではあったが正しかったのだ。《真龍》たちは災害そのものであり、《人界》や《魔界》のいわゆる並みの《信業遣い》とは出力のスケールからして違う。その上でそれぞれに個性があり、この様子だと互いにも対立関係にあるようだ。別個の災害がぶつかり合っている渦中の気分を味わうというのは、適切な表現かも知れないが最悪だ。
ヒウィラが悲鳴を上げる。
「これがッ、《人柱臥処》の防衛システムなのですかッ!?」
「そんなわけないだろ! クソッ、これは───」
「ニーオだろうね。また随分と思い切った手を打ったものだ」
この《冥窟》を支配するルーウィーシャニトは聖究騎士だという。その本拠地に乗り込めば、《火起葬》のニーオとて苦戦は必至。場合によっては一方的に排除されることも考えられるから、それを防ぐために《真龍》を解き放った───ということか。
バスティ曰く、いくら《真龍》が《冥窟》に詳しいと言っても、《人柱臥処》はもともとルーウィーシャニトの管轄下にある。だから一体では制御権争いにすらならないが、三体も同時に《冥窟》を奪いにくれば流石に……という分析らしい。カストラスに短期間習ったことの受け売りだそうだが、俺もヒウィラも《冥窟》についてはそれ以下の知見しかないからそういうものかと納得するしかない。
「つまり、ルーウィーシャニトと《真龍》どもで拮抗してるのか!?」
「多分ね! 《真龍》たちも、それこそ核のみで解き放たれてるだろうから最優先で《冥窟》を奪取しなければ文字通り手も足も出ないはずだ。だから周囲への被害はさほど大きくならないんじゃないかな、っと!」
バスティがそう言い終わったまさにその瞬間、俺たちの頭上はるか上方で轟雷が迸る。無窮の闇に思われた《冥窟》にも見えないだけで壁はあったのか、閃光と爆発が巻き起こり何かが崩れる音すらしてくる。
「……みたいだな」
あれのどこが『さほど大きくならない』だ。俺は頬が引き攣るのを止められなかった。《真龍》たちは支配できた部分からだけでも自分の身体を構築して暴れ回っている。
ニーオの目的はあくまでシナンシスを殺すことであって《人界》の転覆ではないのなら、これも攪乱・陽動の策の一つのはずだ。ルーウィーシャニトであれば《真龍》三体が暴れ回っても押さえ込めるだろうという計算のもとで解放しているはずだと信じたいが、広がる光景を前にしてそんな細い糸に縋りつく気にはなれない。ちょっと計算が間違っていればあのうちの一体が《人柱臥処》を奪い取って、聖都のど真ん中に出現することになるのだから。
《真龍》の義体の格は《冥窟》が続いた期間とその内部で流れた血の量に比例するという。探窟都市ディゴールが数十年かけて育んだ《冥窟》であれだったのだから、いつからあるのかも分からない《人柱臥処》で《真龍》を作ればどうなるかは想像したくもない。
「───大概にしろよ馬鹿ニーオ!」
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