253話 人柱人神その7
「正気なの、ユヴォーシュ?」
「ああ。くそ真面目に《冥窟》の形に従うことなんてない、俺たちはなりふり構わずニーオを止めないとならないんだからな」
先に入ったニーオに対して、同じように律儀に道順に移動すれば追いつけないだろう。ショートカットして先回りでもしなければ可能性はない。
そして経験則からも、《冥窟》の核は得てして一番底に存在することが多い。『潜る』という言葉が一般的に使われるように、《冥窟》とは下へ下へと進んでいく概念なのだろう。
「実際に神を人柱と表現していたからね。神体は最下層にあるだろうことは窺える」
イメージとしては地の底から《人界》を支えるための生贄ということか。大事なものは一番奥に隠すものだろうし、行けるものならば飛び降りた方が早いのは間違いなさそうだ。
というわけで、俺は道を踏み外すことにした。
どうせ浮いているのだから落下の衝撃も何もない。《光背》ごと横に動くのも下に動くのもつきつめれば同じで、だから警告とかも不要と思っていちいち何も言わずにふいっと降りたのだが。
「ちょッ、いきなり身を投げ出さないでくださいッ! こちらにも腹をくくる時間くらいは設けるべきだと考えないのですか、貴方は!」
非難囂々だった。
「別にいいじゃねーか。落下速度くらい《光背》で調節できるし、落ちてる感覚もないだろ?」
「そういう問題じゃないです! 貴方は何かをするときに、まず相談なり報告なりする癖をつけなさいと言っているのです!」
「うるさいうるさーい。騒いでないで各自警戒した方がいいでしょ。ほら、ユヴォーシュはあっちヒウィラはこっち。ちゃんと見張っててよ」
「お前はどこ見張るんだ?」
「ボクは見張らないよ。だって二人ほどは遠くまで見えないし」
「そんなこと言って面倒なだけなんじゃないですか?」
「言ってる場合か、いいから───」
ゆっくりと───実際にはかなりの速度なんだが、《光背》の中だと加速感もないしあまりそんな感じはしない───体感ではゆっくりと落下しながら結局いつも通り言い争いをおっ始める二人を仲裁しようとすると、《冥窟》が激しく鳴動する。
空中にいるにも関わらず衝撃は肌で感じられた。
俺たちが今いる《冥窟》そのものが滅茶苦茶に揺さぶられたのだろう。
嵐と地震と噴火がいちどきに一ところで発生したような混沌。形質は違えどその規模は凄まじい。黒一色の世界に色とりどりの破壊が溢れかえった。
これは、この感覚は───
「《真龍》だ、ユーヴィー!」
バスティと一緒に踏み入ったから俺と彼女は知っている感覚。《真龍》は存在自体が
そんな奴らの気配が、何体も。
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