252話 人柱人神その6

「動機は止めてからゆっくり聞くよ、当人から。今はとにかく時間が惜しい」


 行こう、と告げると今度はヒウィラも《光背》の中に入ってきた。俺は俺たち以外の事物の侵入を禁じることを強く意識する。


「わ」


 バスティの驚きの声は、地面も重力も《光背》に弾かれた結果、俺たちを包む光球ごとふわりと浮き上がったから。三人、いちいち歩幅を合わせずともこれで揃って移動できるという寸法だ。


「ユーヴィー、《信業》強くなってないかい? 前はこんなことやってなかったよね?」


「そうか? やってなかっただけで前からできたんだろ、多分」


 自分では意識していないが練度が上がっているのだろうか。《真龍》ころし、エリオン真奇坑踏破、大魔王討伐に神聖騎士との交戦複数回。そのうちの幾度かは死にかけているし、二人には内緒だがついさきほど《無私》のンバスクの戦いでは本気で死んだかと思った。そういう実戦経験が《信業》への理解を深めているのかなと思いつつ、頭の片隅では何か違うと感じる自分がいる。


 ……まあ、今はいいか。


 俺は頭を振り払ってひっかかりをふりきると、目前の扉へと進むことにした。この奥には小神の坐す《冥窟》、《人柱臥処》が待ち受けている。あとちょっとのところで逃げ込んでしまったニーオと、俺の《光背》を切り裂いた神聖騎士。奴らの企てを阻止しに、いざ。


 俺は扉の中へと飛び込んだ。




◇◇◇




 ディゴールの《真龍》製《冥窟》は、自然洞窟に偽装していたから入る時にはなかった。


 エリオン真奇坑の入り口は縦穴で、そこにたまった霧のせいで内部は見通せなかったが、それだけだ。


 髑髏城カカラムの内部に秘密裏に構築された反抗勢力の隠れ家。あれも多分《冥窟そう》だと仮定すると、内部進入時の違和感すらほとんどなかった。わずかに空気感が変わったような、その程度の差。当然と言えば当然で、隠れ潜むことが主目的なのだから大っぴらではいけない。


 その点で言えばここ、《人柱臥処》も秘密の《冥窟》であるはずだ。だというのに進入時の差は激烈で、俺たち三人を包んだ《光背》の球体は闇黒の中に放り出された。


 足下には申し訳程度の細い道が伸びている。……いやこれ、道といっていいのか? 一人分の幅しかないし、壁も手すりもないむき出しっぷりだぞ。俺は《光背》で浮けるし、ニーオとかも《信業遣い》だから落ちないだろうし、落ちてもどうとでもなるだろうけど、一般人が入ったらどこかで足を踏み外して真っ逆さま待ったなしだ。


 ……つまり、そういうことなんだろうか。


 《人柱臥処ここ》に来るのは《信業遣い》のみ、そう割り切って構築された光景がこれか。ここで落下したときのことを考える程度のやつであれば、入ってきたこと自体が間違い。入った時点で足きりをしてくるここが、神体保管の地か。


「真っ直ぐ進むしかないのかしら」


「どうかな。落ちてみるのも近道かも知れないぜ」

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