251話 人柱人神その5
「どうかな。死ぬかもしれないし、そこまではいかないかもしれない。世界だって同じさ。終わるかもしれないし、終わらないかもしれない」
「……あ? 何だって、世界がどうした……?」
「……彼女が語ったところによれば、小神は《人界》を支える柱、だそうです。『失えばどうなるかは分からない、最悪の場合は《人界》そのものが崩壊するかもな』……と、彼女は嘯いていました」
「……そんな」
俺は今、ちゃんと立っているよな? 唐突にそんな疑問が湧き上がってきて、俺は足元を見る。地面に二本の足がついているのを確かめずにはいられなかった。
世界。世界ってなんだ。《人界》、この人族が日々を営む地と空と海との全体を指す言葉だ。《経》を経て《枯界》や《魔界》にでも行かない限り意識しないはずのそれが神を失えば終わる。終わるって言われてもここに俺は立っていて、息を吸えば空気がある。それがなくなるのか? なくなって後には何が残るんだ。何も残らないとか、そんなことがあるのか?
「……ありえないだろ。そんなこと起きちゃいけないし、起きるはずがない。大神がそれを赦すはずが───」
「私も、そう思って反論しました。けれど彼女は嗤って───」
こう言い放った、という。
小神だってもともと同じ人族、殺せない方がおかしいじゃないか、と。
その真実は、さながら雷だった。
耳から入って俺の中を一瞬で駆け抜け、全てを繋げると同時に打ちのめす。
───
───占神シナンシスと初めて会ったときにも覚えた違和感。神というからにはもっと世俗を超越した、法律の文章そのもののような厳格な存在、《人界》の規範そのものかと思っていたのに思ったより話せるなと感じたこと。同じ人族ならむしろ当然だったんだと今更ながら納得する。
───ニーオと占神シナンシスが協力しているなら、それを止めようとする信庁は神に敵対する反逆者のはずなのにそれでいいのか? という疑問。何ということはない、聖究騎士が知っているなら止めるのは当たり前だ。《人界》を支える小神の回りくどくてはた迷惑な自殺なんて、断じて看過できないだろうさ。
そう、シナンシスがシナンシスを殺そうとするのは、一般に自殺と表現していい行動だ。
だが、何故?
こんな大掛かりな事件をしかけなくても死にたいなら死ねばいい。いや、もちろんそれでどんな影響が出るか知れたものではないから止めるし、こうして分かりやすい騒動を起こしたのは聞こえは悪いが僥倖だったろう。決意したシナンシスがある日いきなりぱったりと自らの命を絶てば止めようなどないのだから。───そうしないということは、そうできないのか?
神殺し。俺が思っているよりも、複雑な経緯がありそうだ。
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