248話 人柱人神その2

 メール=ブラウも言っていた。二人はニーオと行動を共にしている、と。先刻までは一緒だったが別れたのはなにがしかの理由で決裂したからで、その理由は恐ろしいが聞いておかなければならない。


「……本当に、ニーオがこの一連の騒ぎの首謀者なのか。あいつが、やらかしたのか」


「っ……それは……」


「ヒウィラ、もう諦めたまえよ。黙っていればユーヴィーが諦めるなんて考えてはいないだろう?」


「それは───」


 もちろん、二人の口を無理矢理に割らせる真似を俺がするはずはない。ただ教えてくれないというのなら調べに行くまでで、それはヒウィラからすると何やら心苦しいのだろうと伺える。


「教えてくれ。あいつは何を企んでるんだ。なあ、頼むよ」


 ヒウィラはこれまで見たこともないほど表情を歪める。


「───では約束してくれますか。今何が起きていて、彼女ニーオがそれにどう関与しているのか、全てお伝えしますから。これ以上は関わりを持たず、大人しく帰る───と」


 私を信じてくれますか。そう言われてしまえば、俺も同じように顔を歪めるしかない。


 信じろ? 信じろだって?


 それは誰を、何を信じろってんだ。きっとヒウィラのことじゃなく、俺が約束したとして、信じるのはもっと別のことだ。信庁の神聖騎士たちがこの事態を収拾できるかどうかとか、ニーオが他人の迷惑も考えずこんな事態を引き起こした首謀者ではないかどうかとか、そういう部分。


 俺が、『俺の幼馴染がそんなバカげたことをしでかすはずがない』と信じたがっているのを、信じ切れるかどうか。


 ───そんなの。


「……無理、だ。俺は帰る訳にはいかない。───あいつを止めないと」


 心のどこかでは理解していたんだ。これほどの事態は聖究騎士でもなければ起こしようがないし、って。それを必死になって目をそらして、どうしてどうしてって駄々っ子みたいに喚いてばかりでは先に進めない。どういう理由でもあいつがやらかしたのだろうと覚悟を決めて、何が何でも止めなければならない。


 幼馴染だからってそんな責任があるのかは知らないけれど、俺がそうしたいから。


 間違ったことをしているなら正さねば。このままでは、あいつもマイゼスのようになってしまう。《魔界》のすべてを憎んで呪って、膨れ上がった感情ゆえに止まれなくなってしまった───死でしか止まらない、自我エゴの塊。


 そんなの悲しすぎるじゃないか。そうなる前に止めてやらないといけない。


「だから、ごめん。行かないと」


 きっとヒウィラは俺のために引き返せと言ってくれたんだと思うけれど、その優しさを受け取ることはできない。

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