247話 人柱人神その1
俺が駆けつけたとき、そこには凄まじい光景が広がっていた。もともと倉庫街か何かだったらしい。建造物は軒並みある一点を中心に吹き飛ばされているが、唯一その爆心地にある扉だけは無事なのだ。扉の一面は底知れぬ深淵に繋がっているように真っ暗で、暗視能力をどれだけ上げても見通せない。反対側から見れば普通の扉、向こうの光景が広がっているから、異常なのは片面から入った時と耐久性か。
彼方で上がった火柱に、少なくともヒウィラかニーオのどちらかはいるはずだろうと俺は判断した。空を急行して到着した爆心地にはしかし、二人のどちらの姿もない。
「……これが、《人柱臥処》の入り口の一つ……か?」
《信業》としか考えられない火勢の爆炎、その爆心地で唯一健在な扉と来ればそう考えるのが自然だろう。《冥窟》と聖都を隔てる扉は《光背》すら通さず向こう側について窺い知ることはできない。どうなっているかは入ってのお楽しみということか。
ヒウィラかニーオがここに居たのは確かだろう。あの瞬間、混乱の中で確信はないが、《光背》越しに二人を感じたのは錯覚ではないはずだ。それがいないと来れば、考えられるのは一つ。───扉の中しかない。
《冥窟》には碌な思い出がない。ディゴールの《真龍》製《冥窟》、エリオン真奇坑、そして髑髏城カカラムに秘密に造られた反抗勢力の隠れ家。とはいえそうも言っていられないと言われればそうで、だから俺は腹を括って一歩を───
「ユヴォーシュ!」
───踏み出す瞬間、中途半端なところで固まってひっくり返る。間抜けだけど、ずっと探していた人の声だから安心して気が抜けちまったんだ。
俺はひっくり返ったまま声の主の方を向く。やはり彼女たちだ。
「ヒウィラ、バスティも! やっぱりここにいたか、無事だったか!?」
「無事かどうかで言えばまあ無事でいいんじゃないかな? 危ういところだったけれどね」
「それというのも貴方が無鉄砲に飛び出すから……! 貴方はどうですか、無事でしたか」
「あ、うん。まあ」
「嘘だね。バレバレだよ」
二人と別行動をとった直後、ンバスクと斬り合いになって、最終的にぶった斬られたはずだ───というのが脳裏をよぎった。そのせいで強ばった表情をあっさり見抜かれては、苦し紛れの弁明も出ない。
「いや、でも、何とかはなったし」
「またぞろ無茶をしてきたんでしょう。恐ろしい話なんてもう十分、聖都も満喫しましたから帰りましょう。これ以上は私たちの領分ではありません」
ヒウィラが皮肉交じりにそう言ったことに俺はひっかかりを覚える。彼女ならばもっとこう、俺が何かやらかしてきたと知ればそれこそ根掘り葉掘り聞き咎めるだろうと思ったのに。彼女が気にしているのは
───その時、俺の中ですべてが繋がった。
《人柱臥処》へと通じているであろう扉。俺を回れ右させようと言い含めてくるヒウィラ。そして先刻ここで上がった火柱。
「ここからニーオは進んだんだな」
はっきりと、彼女は刺されたような顔になる。
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