244話 神意神殺その8
ヒウィラの《信業》、心象の発露。発動のためのルーティーンとして、彼女は自分の心を
今ある色は怒りと決意、恐怖と敵意。ポジティブな感情は極僅かで、あまり使える量はない。
彼女の《信業》には分かりやすい利点と欠点がある。
利点はその応用力と適応力。感情とはすなわち周囲の環境から受けた刺激に対する反応であり、彼女の《信業》は刺激が好ましいものであればそれを維持する方向に働くし、好ましくなければ改善するように働く。
敵意であれば敵がいるということ。その問題を解決するシンプルで直情的な方法は敵の排除であり、彼女の
反対に決意であれば、実現したい明確な目標の存在を意味する。故に目標を達成できる自分であろうとし、結果として出力されるのは反射神経や防御能力の向上といった守りの力だった。
普段の彼女ならば反応し得ない一刀を防いだのは、その分かりやすい一端。
ヒウィラとニーオが激突した瞬間、ヴェネロンが恐るべき足運びで距離を詰めてきていたのだ。《信業》で強化された身体を以てしても、ロングソードを握る手が痺れていた。
やはり凄まじい遣い手。剣技だけでも彼女を圧倒できるその腕前に震えが走る。その感情を押し殺さず、制御して《信業》として操らねばならない。
塗りたくるイメージは暗色。己をそれほどまでに恐れさせる、計り知れない存在に対してのネガティブな影響を振りまくのが恐怖発露の特徴だ。恐るべき相手ならば恐るるに足らない程度まで、出来ることを引き下げてやればいいという考え。
果たして一定圏内にぶちまけられた恐怖の具現に、ヴェネロンは鬱陶しそうに後退する。離れればまた元のスピードを取り戻すが、そこは怒りを操って炎熱で近付けさせないつもりである。
火勢を操って相殺せしめたニーオと、斬りかかる隙を伺っているヴェネロンが並び立つ。
「あれも力量を量るつもりじゃないよな、爺さん?」
「まさかよ。私を誰彼構わず師匠面をする狂人とでも思っていないか。私とて師である以前に神聖騎士。魔族を生かす理由もない」
「……あんたは十分に狂ってるよ、ヴェネロン。そうじゃなきゃアタシに加勢するもんか」
「違いない」
気の抜ける会話を交わしながらも、ニーオの周囲の炎がうねる。
《信業》───《火起葬》が蠢いているのだ。
「彼女は強いぞ。魔王相当とはいかずとも、並ではない」
「そうかよ。……アイツはアタシがやる、師匠はバックアップに回ってくれ」
「了解」
槍を投げるように構えたニーオの、その手中に火焔が渦を巻く。アレを放つ気だ、迎え撃ってやる───ヒウィラは怒りと敵意を混成して、炎を杭状に束ねて構える。
互いの熱量が最高潮に昂って、いざ尋常に勝負───その瞬間、バスティがヒウィラの身体に飛びついて横倒しになった。
「何をッ」
「ダメだ、避けるんだよ!」
体当たりで倒れ込んだ二人の、一瞬前に居た空間をニーオの火が貫いた。
同じ火を操って、同等の力でこねて放ったはずなのに、ニーオの火はヒウィラのそれを完全に上回っていた。火の扱いに長けているとかそういうレベルではない。もっと何か本質が違う。キャンバスに描いた火がどれほど真に迫っていても、キャンバスに火を放たれれば勝ち目がない、というような───
「ああ、そういや見せてたな」
ニーオが呟く通りバスティはそれを知っていた。探窟都市ディゴールを襲った《真龍》こと《瞬く星》のアセアリオ目がけて、地上から彼女が放った火焔の槍。《信業》で拡張された《点滅》でその悉くは避けられてしまったが、当たれば何れも致命傷。自負や自惚れではなく、そうなるように出来ていると知っているのだ。
「《火起葬》は防げねえ。あるのは当たるか当たらないかだけ───死すべき
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます