242話 神意神殺その6
メール=ブラウに突き付けた剣先が震える。知られざる新たな聖究騎士、そいつの支配する地底世界。ニーオがそこを目指しており、バスティとヒウィラも同行しているというのか。
そうと分かればこんなところでグズグズしていられない、さっさとメール=ブラウの縛鎖を断って向かわねば───そう思って、思い直す。一つだけ聞いておきたいことが残っている。
「どうしてそれを、俺に教えた。一体何を企んでる」
「言ったろう、物覚えが悪いな。俺は
吸って、吐いて、
「アイツだけ一人勝ちしたんじゃ収まりが悪いだろう」
彼はその言葉を、本当に悔しそうに吐き出した。
───俺はメール=ブラウ・フォシェムの根底を見た気がした。
彼は自分が勝つとは毛頭考えていないのだ。自分は必ず負ける側だという前提から離れることができない。だから他の誰かが勝つことが許せない、受け入れられないのだろう。
自分は勝てないと決まっているから他の誰かが勝つのを邪魔したい。そんな劣等感が透けている。
……少し、可哀想だと思ってしまう。
やったことは人の意思を蔑ろにした無道そのものだし、二度も邪魔してきた遺恨もある。それでも、と思ってしまう。
大魔王マイゼスとは違う。彼との決着は死以外のどこにも行きつくことはなかった。殺し合うしかない関係性を、俺は唾棄する。そんな関係しか築けないなら出会わない方がマシで、出会ったからには出会ったなりの甲斐のある関係を構築する義務があるだろう。
どうしたってそれしかないなんて、そんな寂しいことを言うなよ。人族であれ魔族であれ他の誰であれ何であれ、俺たちは自由で、可能性は無限にあるはずなんだ。死ぬべき定めの存在なんていないって証明させてくれ。じゃないと───
だから俺は、メール=ブラウであっても殺したくはない。今は無理でも、いつか、って。
───まあ、今はちょっと忙しいから……無理なんだけどな!
俺はアルルイヤを振り下ろす。綺麗な高音がして、冠は断ち切られた。アレヤ・フィーパシェックは《鎖》から解放されたが彼女だけじゃない。俺は操られた兵士たちを傷つけないように、《信業》の冠だけを破壊できるように、細心の注意を払って魔剣を振るってまわる。叩き斬ればそれでいい戦闘より、よっぽど気を遣う時間だった。
あれやこれや感慨には耽ったけど、それはそれとしてメール=ブラウの野郎め。あいつの情報にはどうにも裏があるというか、一々俺の行動を縛ってこようとする悪意が感じられてやりにくい。《人柱臥処》とやらにしたって、どこまで真実か分からないから用心を欠かせないんだ、まったく。
《光背》との同時展開はできないから、俺はいったん《火焔光背》を解く。メール=ブラウ軍団と激しく交戦してしまったからこの期に及んで目立たないようにするのはナンセンスだ。俺は全力で
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