241話 神意神殺その5

 ───どう足掻いても《火焔光背》から脱せない。脱しようとするあらゆる行動がその前段階から燃焼させられてしまう。


 これをどうにかするには、影響範囲の外側から遠距離攻撃をするのが最適だろう。『範囲内から敵意を取り除く』という本質は変わらないが、発露の形質を変化させることで対象も変化させている。おそらく、普通の《光背》のように物理的物質的防御力は備えていないと見ていい。


 ただし今メール=ブラウが動かせる兵力はここに集中してしまっている。大急ぎで新しい操り人形を用意したとして間に合わない。


 そうなると後はもう力勝負───燃焼させられるよりも強い意思で破ろうと行動すれば、《信業遣い》なら或いは。


 どんな《信業》にも出力限界は存在する。そこを衝いてほんのちょっとでも行動を実行できさえすれば、こちらの《信業》で一撃を加えることは不可能ではない。物理的に無防備であろうからその一撃でも十分なダメージを与えられる。


 与えられるのに。


 《信業》で操り人形にした征討軍兵士を介して、さらに《火焔光背》を破るほどの《信業》出力は発揮できない。


 これがメール=ブラウ本人ならば話は違った。全力で抵抗すれば隙をねじ込むことは叶ったろうが、アレヤの身体を動かしたことが裏目に出た。


 完全な詰み。彼女はまだ使えたかも知れないのに、ここでユヴォーシュに奪還されることは避けられない。ほら今まさに、燃え上がる世界の向こうからユヴォーシュがやってきて魔剣を鎖冠につきつけた。


 だからせめて最後に役立てる。無駄には出来ない。


「参った、俺の負けだ。お前ならニーオを止められるかもな」


「素直に降参するつもりか? どういうつもりだ」


「無駄なことはしない主義なんだ。それに、ニーオに勝たれるのは業腹なんでな」


 ユヴォーシュのは堪能できた。彼は放っておいてもこのゲーム、絶対に勝ちの目はない。だからメール=ブラウは、自力で負かすのは諦める代わりに───ニーオを負かすために利用することにしたのだ。

 少女二人を探し回っている彼は早晩ニーオに追いつくだろうが、それがいつかは分からない。ゲームの決着がついてからでは遅いから、誘導することで早めてニーオの妨害をさせる。


「お前の目当ての子らは、ニーオと一緒にいるところを目撃されてる。おそらく、今頃はもう《《潜ってる》はずだ》」


「潜ってるって……どこにだよ!」


「俺たちの足下さ。聖都イムマリヤの地下に存在し信庁が秘密運用する《冥窟》───《人柱臥処》」


 ───元来、聖都イムマリヤの地下には無数の自然洞窟が存在する。


 ユヴォーシュの両親が眠る地下墓所も然り、聖都の住民はあれやこれやと便利に使っている洞窟。


 


 自然洞窟を利用して《冥窟》を構築し、その最深部に小神の器───神体を隠し秘蔵するため。


「聖究騎士、《冥窟》のルーウィーシャニトが治める絶界。ニーオリジェラが無策なら、突入するだけで命を絶たれるだろうよ」

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