240話 神意神殺その5
ぶっつけ本番、やり方すら分からないが手探りでもやるしかない。───やってやる。
《光背》は物理的干渉を弾き飛ばす上位の力そのものだ。だがこの状況下では兵たちを徒に傷つけるばかり。
必要なのは違う階層の力の行使。
彼らの肉体を押し止めるのではなく、彼らを操る意思をどうにかする手段。
光とは違うカタチを模索する。《光背》のイメージと直結しているからアレンジしにくい。人の心の中まで照らすことはできないし、照らしたとしても敵意だけを恣意的に吹き飛ばすのは難しいだろう。
人の心の敵意だけ切り分けるのは違う。ただ敵意や害意、殺意を別の方法で発露させられれば心に手を加えるような真似はしないで済むと思ったのだ。
《信業》の質を変化させていく。吹き飛ばす眩い力ではなく、熱く優しく。
イメージするのはいつか見た、あいつの統べる鮮やかな炎───
瞬間、辺りは炎上する。
《信業》がそう認識されただけで現象としての炎そのものではない。発火源にいる俺も、周りの皆も、通りの地面も壁もその他諸々も何一つ損なわれはしない。
熱を持たない炎は、物質ではなく感情を燃焼させる。
非実在性の火焔にまかれた兵たちは棒立ちとなる。目をこらしてみると動こうとしているのが分かるが、そのたびに火勢が強まるばかりで実際の行動には移せずにいる。
「───テメェ、一体……何、しやがったッ……!」
口だけは動かせるようにしてあるから、メール=ブラウがやっとのことでそれだけ発した。合間あいまで罵倒でも挟もうとしたのか口から火焔を吐いているのが、大道芸のようで実に見物だ。
炎が燃やすのは悪なる意思。具体的には『俺を中心とした一定圏内で俺と敵対しようとする意思』に反応し、それを燃料として熾る仕組み。剣を振り上げようとすれば普通は腕を振り上げる行動で実現されるところが、この《信業》の圏内では腕のあたりから上がる火炎がその行動の代替となってしまう。認識上は行動を完遂したと判断するが実際には何も起きずただ燃え上がるだけ。
俺が許可しない限り一切の行動は封殺できる。
どうしたって、どう止めたって傷つくなら───そもそも何もさせなければいい。荒っぽいがそれが俺がひねり出した答えだ。
───《火焔光背》。
俺の《信業》の新しい形質。独善的なのは百も承知だが、今はそんなことは言っていられない。
「メール=ブラウ、お前は『何が何でもニーオを邪魔する』って言ってたな。俺も同じだよ」
俺は何が何でもお前からアレヤ部隊長を解放する。
何が何でもバスティとヒウィラを見つけ出して三人でディゴールに帰るし、何が何でもニーオと会って事情を問いただす。もしあいつが本当にこの一件を引き起こして、まだ何か企てていて、それが《人界》にとって悪であるなら───何が何でも止めてやる。
「我儘かもな。でもその我儘を徹すためなら、何だってしてやるのさ」
一歩一歩ゆっくりと踏みしめて近づく。アレヤ部隊長の顔が歪む───が、メール=ブラウには何もできない。
火勢がいっそう強まった。
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