225話 大罪戦争その7
《光背》を破ってくる感覚はなかった。
ロジェスやマイゼスの時とは違う。彼らに《光背》を破られた時は、その感覚を確かに俺が受け取った。彼はそうじゃない。
ンバスクはすり抜けてきた。
一切の抵抗なく、水に手を突っ込んだ時の感覚。当然彼を遠ざけることなんて出来るはずはなく、踏み込みを見てからマズいと思って後退したのではやはり一歩ぶん遅い。
あっさりと胸を斬りつけられる。ロジェスの時よりも深い刀傷。
「ぐ……ッ」
「あれ? 今ので避けるのか」
「避けてねえだろ何見てんだ……!」
「胴体真っ二つにするつもりだったからね。鈍ってるな」
冗談じゃない。ロジェスみたいな治癒阻害性はないようだが、背骨まで斬られればやっぱりどうしても治すのに一手間取られる。彼の前でその隙を晒せば、あとは治るはしから斬り刻まれて殺される。
「まあでも、警告としては上々だろう。手向かえば死ぬって、分かってもらえたかい?」
「イマイチ信じらんないな。この程度じゃ伝わんねえよ」
憎まれ口をたたいても、内心でかつてない危機だと実感しているのは誤魔化せない。
彼は強い。それもロジェスとは別種の強さ───!
俺自身に倒せるビジョンが浮かばないから仕方ないが、ヒウィラたちのことがなければとうに降参していただろう。彼女に俺の真意が伝わって、この場から遠ざかってくれていればいいが。さっき斬りつけられながら一瞬《光背》越しに感じた彼女は無事そうだったから、あとは現状を維持さえしてくれればそれでいい。
彼に攻撃を徹せないとしても───どうにか時間を稼いで逃げるから。
「ぅオ───危ね……!」
とはいえそれも言うほど容易くはない。剣を打ちあえない、防げないなら避けるしかない。原理は不明だがこれほどの透過を実現しながら更に身体能力も化物じみている。俺が《光背》を引っ込めて身体能力に全振りしてるってのに、何でこいつは悠々と追いついてくるんだ!
アルルイヤを突き出してもあっさりと突き抜けた先、刃に血の一滴もついていない。《信業》殺しの魔剣ですらこれだ───何なんだよこれの仕掛けは!
くそ……これだけはやりたくなかったんだが。
「ご、は……!」
俺の腹を剣が貫く。
脂汗が噴き出る。握っている相手がちょっと横に薙げば下半身とおさらばしかねない状況に、口の端がひきつって笑えてくる。
それでも、刺さっているならこっちからも干渉できるってことだろ。肉を斬らせて骨を断つ、喰らいやがれ───!
───おい、何を、
何を可哀想なものを見る目で俺を見やがる───
「僕には自分がない。自分で決めることはない。頼まれてやっていることばっかりだ」
俺の腹にンバスクの剣はまだ刺さっているのに、死にそうなほど痛みを感じているのに、
俺の剣は
「だから誰も止められない。僕には自分がない」
いつの間にか彼の振り上げた剣が、俺の心臓に突き立つ。
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