221話 大罪戦争その3
「捕まえるだって。俺をか? 何故だ」
ンバスクが剣を抜く。俺はまだ抜かない。神聖騎士と事を構えるのは最悪の場合、《人界》との全面戦争もありうるような事態だ。ロジェスやガンゴランゼに襲われるような流れでないのなら、話をできる相手であるならば、納得してから動きたい。
ンバスクは剣を空に向ける。
「これは君の仕業か?」
「違う」
ンバスクはその返答を予期していたのか拘泥することなく、
「この異常現象。これは聖都イムマリヤの天上に円状に広がっている。その中心はここだ」
剣を下に向ける。床を叩く。
「これだけの異常事態の引金を引くには中心でなければならない。そこに居る者は犯人とは限らないが重要参考人だ。確保して証言を得る必要がある───とまあ、そういう流れらしい。だから捕まえるっていうのは乱暴な言い方で、ただついてきてくれればそれでいい」
嫌とは言わせない、と締めくくる。
これで刑の再執行なんて言われれば全力で抵抗するつもりだったが、この状況下でそんなことを言いだすほど馬鹿ではなくて安心した。俺も彼らも異常事態───《人界》と《魔界》の衝突を止めるという目的は一致しているはずで、ならば今は協力しても大丈夫なはず、なのだが。
───待て。俺はいいかもしれないが、彼女らはどうなる。
聖都に来て墓参りをして、それ以上は何もせずに帰ってくるつもりだった。だのに空模様が荒れ、《角妖》の男が逃亡し、神聖騎士ンバスクと対峙している。このまま俺が同行すればどうなる? 彼女らはこの聖都に置き去りだ。神聖騎士たちが事態の収拾のために動き回る、この聖都で。
もっと悪いのはここに彼女らが合流すること。《遺物》を貫通して看破しかねない神聖騎士と彼女が、さっそく鉢合わせさせるのはまずい。彼女は言い逃れしようもないくらい魔族なんだから!
「───悪いな。よく考えたら、黙ってついてったらまた穴落とされそうだから断るわ。じゃ、そういう訳だから」
「生憎こっちも仕事なんでハイサヨナラとはいかないんだ。逃げるつもりなら力づくになるけど?」
「構やしねぇよ」
俺は覚悟を決めてアルルイヤを突き付ける。ちんたら話しているといつ二人が追いついてくるか分からない。俺は先手を取って斬りかかると、避けたンバスクを吹き飛ばすための《光背》を展開する。
広げる───もっと───もっと───もっと大きく!
以前、ディゴールを荒らしまわった魔獣にそうしたように、超広範囲を貫通する光源と化して俺は輝く。広げれば薄まるのは自明の理で、これではンバスクは容易く斬り払ってくるだろうが狙いはそこではない。こうして広げた《光背》がヒウィラに届けば、彼女を弾く。俺に近づくなと伝えられる。
だから───届け!
夜にさせられた聖都を、俺は煌々と照らし上げる。
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