220話 大罪戦争その2

 奥の奥、魔族の大軍勢の背景には別の都市が見える───これで確信した。


 時の狂った夜空の星空の向こう側は《魔界》だ。


 それがあの男の行った大災厄。本来ならば《経》を経てのみ行き来が可能なはずの《魔界》と《人界》が繋がっている。俺たち《人界》にとっては不測の事態であっても、彼ら《魔界》にとってはそうとは限らない。あれだけ即座に攻め込んできているあたり、むしろ待ち構えていたとすら考えられる。


「なんてことを考えるんだよ……!」


 ここ暫く、ヒウィラを始めとして人族と没交渉でない魔族たちとばかり接点を持っていた。魔族として異端なヒウィラ、マイゼスは置いておいても、《魔界》アディケードの精鋭たち、《魔界》インスラの大魔王軍の者たち、あるいは《魔界》インスラの反マイゼス抵抗者たち。


 いずれも嫌悪は持ちつつもそれを押し殺して俺たちと関わった。それは本能的な感情を封殺できるだけの使命、任務、損得勘定の類をしっかりと持っているプロフェッショナルであるが故だ。仕事相手にはなれたとしても、友達にはなれない。絶対的な溝に一時的に橋をかけただけで、埋め立てることはできない。


 奴らは違う。


 奴ら、《翼禍》の軍勢の仕事は人族を攻め滅ぼすこと。そこに一点の曇りもないから、嬉々として降下してくる奴らを止めるには戦うしかない。


 俺は博愛主義者じゃない。戦う必要があるなら剣を握ることに躊躇いはないが、そこに筋道は欲しい、あって然るべきだと考える。だからつきとめなければならない。あの男、《角妖》の《遺物》保有者が何を目的としているのか、追いかけて探し出して問い質す。


「……よし」


 やることは決まった。ならば一直線、まずは事態の終息に務めるため───


「何が『よし』なのかな?」


 《角妖》の元凶がいなくなって、ここには俺しかいないはずなのに。気取られることなく背後をとってみせるとは只者じゃない。背後からかけられた言葉に振り返る。


 振り返って───拍子抜けする。身構えていたよりもずっと普通で掴みどころのない青年が佇んでいた。


 ロングソードを片手に自然体の彼に特徴はない。ぼやけた黒髪は男性としては少し長めか? 水色の瞳、どこを見ているのか。


「名乗っておくよ、ユヴォーシュ君。僕の名前はンバスク。……こっちだけ一方的に知っているのは不公平だろうから」


 こいつも俺の名前を一方的に知っているヤツか。《角妖》といい、変に有名人になるのは本意じゃないんだが……。いや、待てよ。待て待て、一方的か? 何かひっかかる。


 その声、その顔、どうしてロジェスを思い出す。


「これで会うのは二度目だね。まさか二度目があるとは思わなかったけど……また大人しく捕まってくれることを期待するよ」


 やっと思い出した。


 俺を《虚空の孔》刑に処した神聖騎士の一人。俺を《枯界》送りにした二人組が、ロジェスとこいつ───ンバスクか!

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