215話 年次信会その2
その彼女が言及した《絶滅》のガンゴランゼ。彼は以前、ユヴォーシュと敵対しその刃に負けた。外傷はユヴォーシュが消し去ったが、原因不明の昏睡に陥ったまま今日を迎えている。彼と彼の配下───讃頌式《奇蹟》で意識を共有していた聖讐隊たちは、全員眠ったままだ。
そしてガンゴランゼ・ヴィーチャナがユヴォーシュを追っていた事実を知る者は、この場には一人しかいない。メール=ブラウがよく彼の相談を受けていたのは周知の事実だったから、そこをつついてきたか。
ナヨラにそんな人間関係を把握できるはずがない。吹き込んだのはどいつだ。
「らしいなァ。早く元気になって欲しいもんだぜ」
「そんなこと言って、お前のせいなんじゃないのか? メール=ブラウ」
横合いから投げつけられた疑いに、彼は確信する。こいつの差し金か、と。
その火力は《人界》一とすら目される者。個人で可能な最大規模の破壊を成し得る一種の戦略兵器そのもの。
《火起葬》のニーオ。ニーオリジェラ・シト・ウティナ。
占いを司る小神シナンシスの契約者。
メール=ブラウは彼女に近しいものを感じていた。だからといって親近感など抱かない。起こり得るとすれば同族嫌悪以外にあり得ない。あるいは辛うじて同じ盤面を囲むプレイヤーとしての感情くらいか。強くあってほしい、手強くあってほしい、そうであればあるほど叩き潰した時の快感が増すから。
「言いがかりは止せよ、ニーオ」
『うむ。そもそも、貴様はまず自分を顧みるべきだニーオ』
響くのは声ではなく念波。この場にいない彼女が意思伝達をするために必要とはいえ、身構えていない時にやられるとどうしても体が反応してしまう。まずこれだけの大空間、大人数に一律に伝わる念話というのはそれだけで桁外れの《奇蹟》の精度だ。
信庁随一の祈祷神官にして、彼女の構築した《冥窟》からの出席が例外的に許された唯一の聖究騎士。
《冥窟》のルーウィーシャニト。ルーウィーシャニト・ジェセウ。
墓を守る小神テグメリアの契約者。
高座にある姿は
それほどの無理を押してまで彼女が実体で出席しないのは、それを許されているのは、彼女が何かを守っているからとされている。その内容を知るのは彼女と、あとはもう一人だけ。
───その彼の高座は、他の八人のそれと何ら違うところはない。
違うのは座っている人間だけだ。彼がそこに在るというだけで、そこが議場の中心となってしまう。それくらい、彼の存在はこの場の重しとなっているのだ。この場が成立するのは彼あってこそ。
《人界》の実質的統治者。神聖騎士筆頭。
そして、《人界》最強。
《灯火》のディレヒト。ディレヒト・グラフベル。
竈を───ひいては《人界》の穏やかな日常そのものを司る小神ハシェントの契約者。
『ニーオよ。貴様、探窟都市ディゴールの担当をどこの馬の骨とも知れぬ男に投げたそうではないか。何者だ、そ奴は』
彼が、このオースロストが始まって以来初めて、その顔に僅かな苦みを走らせたのを───メール=ブラウは見逃さなかった。
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