214話 年次信会その1
毎年実施されるこの集会は、普段は《人界》各地に散らばっている神聖騎士たちが一堂に会する唯一の機会。集った神聖騎士たちの持ち寄る議題を審議し、この一年の反省をしつつ、向こう一年の《人界》統治の方針を決定する重要な会議である。
開催される信庁大議場は円形の空間だ。スタンド席に座っているのは全員が神聖騎士で、そのうち聖究騎士の席のみが他より高くなっている。九つの高座のうち六つは埋まり、二つは空席、そして最後の一つには実体ならざる幻像が着いている。
「話によるとさあ、《魔界》アディケードから随分と慌てて《魔界》インスラに向かったそうじゃないか。グオノージェンの《信業》まで使って、デングラムの安定《経》に突っ込むような真似までして。それについての釈明とか、ないのか? 病み上がりのところ悪いけど」
「…………《魔界》アディケードで得た情報から緊急性が高いと判断した。報告したろう」
高座にあるロジェスの言葉はちぎって投げつけるかのようにぶっきらぼうだ。相手を見ようともしていない。
その相手───高座の一つに着いているのは、金髪の美丈夫。仮に彼が、聖究騎士の高座ではなくヒラの神聖騎士の席にあったとしても、やはり人目を惹いたであろう。そう確信させるだけの熱量を有した美青年だ。───ただし、その熱量が邪な……もっと言えば他者の足を引っ張る方向にばかり注がれることを、知る者はそう多くないのだが。
《鎖》のメール=ブラウ。メール=ブラウ・フォシェム。
天秤を司る小神バルムァルの契約者。
かつてロジェスとユヴォーシュの道を妨げた男。今もまた、あちらの高座に着いているロジェスへと空虚な指摘を投げかけている。───さも報告書で読みましたと言わんばかりの口調だが、彼は直接的な妨害を仕掛け、それを振り払われている。ロジェスが
微妙なバランスで成り立つ会話を、
「ど~でもいいからさぁ。これからの話をしようよ~」
間延びした口調であっさりとぶった切るのもまた、高座の主。
銀に近い金の髪を短く切り揃えた少女。瞳の色は曖昧で、こうしている間にも移り変わっている。焦点が合っていないように見えるがこれでもマシな方で、時には完全に酩酊して白目を剥いていることすらあるのだ。
自己と他者の境界線、夢と現の境界線、此処と彼方の境界線、それらをフラフラと行き来する巫。
《醒酔》のナヨラ。ナヨラ・ユークリー。
眠りを司る小神アルジェスの契約者。
「ガンゴランゼくんさ~あ、まぁだ目を覚まさないんだって?」
それをお前が問うのかと笑い出しそうになるのを、メール=ブラウはぐっと耐えた。それをやれば会はぶち壊しだ。
二年前だったかのオースロスト。開催が随分と遅れたことがあったのは、彼女が姿を晦ましてしまったから。特定の一人を除き当代の聖究騎士が全員揃っていることが開会条件だったが故に、信庁は威信にかけて彼女を探しまわったが杳として発見できず───最終的にどういうわけか、彼女は聖都イムマリヤ本殿の大聖堂で発見された。失踪している間にどこで何をしていたのか、彼女自身も把握できていなかったという。
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