203話 人界生活その8
「もう何日かで結界敷設は終わると思うよー」
「そうか、助かる。これでヒウィラも気兼ねなく過ごせるようになるな」
「今は自室内だけですからね。こうして食事している間くらい、外したいものです」
彼女はこれ見よがしに首を振る。耳たぶに装着したピアスがちゃり、と音を立てた。これがあるから、屋敷内でも彼女は人族の擬態を取ったままだ。彼女からすれば、やはり息苦しいのだろう。
買い物帰りの夜、居間での夕食だ。俺が買ってきたサンドイッチを揃ってパクつきながらの雑談だが、
「カストラスは?」
「んー。なんか、用事があるって帰った。明日の朝にはまた来るって」
「そうか」
ここ暫く泊まり込んで作業していたから、彼がいないとちょっと新鮮だ。
「まだ結界が完成していないということは、やはり?」
「まあ、そうなるだろうな。いいよ俺がやっておくから」
「貴方いつ寝ているんですか」
「キミが来たからなんだから、キミがやったらどうだいヒウィラ。全部ユーヴィーにやらせるのはどうかと思うよ」
「私もそう言っているのですが、聞かないんです」
「どうせ結界敷設が完了するまでの話だからな。いいって、慣れてるさ。……というか、そういうバスティはやる気ナシか」
「ボクは結界に集中したいからねー」
どうにも二人の仲が良くなる気配がないのが悩みの種だが、まあそのうち馴染むだろう。そう考えて───というか思考放棄して、俺はサンドイッチを口に運ぶ。
その後もどうでもいい会話をしながら夕食を平らげ、各々の部屋に引っ込んでいく。別れ際、ヒウィラに「明日も買い物の続きに行くからな」と言うと「はいはい」ときた。全く乗り気ではなさそうだが、そんな口を叩いていても引っ張り出せばウッキウキであれこれ店を回るはずだ。だからあまり心配はしていない。
心配事は、別の話。
───深夜、日付も変わろうかという頃合い。
俺は自室に置いていた長椅子の上で瞼を開く。一瞬前まで寝ていても即応できるように征討軍で受けた訓練は、今日でも活きている。
「……さて、どこの手の者かな」
街に出てヒウィラを見せた以上、彼女に用がある者は追いかけてきてどうにかするだろう。ここ数日動きがなかったから、少しだけ目立たせてみたのが正解らしい。
屋敷の結界が敷設されるまで待つことも考えたが、今来るようなやつは魔術的結界くらいなら容易く踏み越えるだろうと判断した。それなら先に来てもらった方がマシだ。結界敷設後に招き入れて、折角の結界を台無しにされちゃたまらないからな。
侵入者が誰かは、とっ捕まえてから判断すればいい。ここで押さえておきたいポイントは四点。
一つ、ヒウィラを守り通すこと。
二つ、ディゴールの人々に知れ渡るような騒ぎを起こさないこと。
三つ、敵の正体が判明するまでなるべく殺さないこと。
四つ、ヒウィラを狙うのは無理だと諦めさせること。
「───やれやれ、手間のかかるお嬢様だ」
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