204話 人界生活その9

「おはよう」


「おはようございます。今日も買い物ですか?」


「そのつもりだよ。ただ、今朝は日課の鍛錬がまだだから先に済まさせてくれ。待ちきれないってんなら先に行っててくれても構わないけど……」


「まさか。わざわざ一人で出歩いたりはしませんよ。……貴方だって、私に単独行動されると困るでしょうに」


「はは、何とかなるかなと思って」


「全く呆れますね。……ああ、貴方も。おはようございます」


「おはよー」


「ああ、バスティ。そういえば結界の仕様だけど」


「細かいところはカストラスが来たら聞いてよねー。で、なに?」


「結界って物理的防御力とかないよな。偽装と探知だけだな」


「うん。特に障壁としての機能は持ち合わせてない、無色無味無臭だよ」


「そんならいいんだ。……いや、考えてみれば俺やヒウィラを狙うような輩に魔術的排除を試みるのは無駄かな、って」


「…………ユーヴィー、それカストラスに絶対言っちゃダメだよ」


「……間違いなくプライドを傷つけられて、更に工期を延ばしてでも対応しようとするでしょうね……」


「あー……気を付ける」


「───そうだユヴォーシュ、昨夜はありがとう」


「ん、何のことだ?」


「とぼけずともいいでしょう。侵入者の気配、気付いていましたよ」


「へー」


「気付いてても起きてこなかったヤツと、気付いてすらいないヤツと……」


「ボクはいいの。結界作業で疲れてたし、そもそも神なんだから」


「また言ってる……。その論理で言うなら、私も姫ですから構いませんね」


「ヒウィラはもう姫じゃないだろ。というか元々姫じゃないんだろ」


「うっ……。ゆ、ユヴォーシュは一体どちらの味方なのですか。バスティの肩を持つつもりですか、貴方!」


「いや俺は別にどっちの味方でもないし、というかただ指摘しただけなんだけど」


「問答無用! ───ちなみにどこからの客だったんですか?」


「んー、反アムラ派の魔族と、神聖騎士の下っ端と、都市政庁の斥候と、あと俺の知人ムールギャゼット。ドンパチやったのは最初のだけで、後のはそれを見て帰ってったよ。魔族どもはとっ捕まえて糺したら、お前さんを殺して俺の恨みをアムラに擦りつける魂胆だったんだと。二度とそんなこと企めないようにしてやったから安心していいけど」


「多すぎません!?」


「そんだけ俺たちには興味の矢印が向いてるってことだよ、よくも悪くもな。いいじゃねえか、楽しもうぜ。この《人界》生活をさ」


 俺はニヤリと笑う。


 ヒウィラは心底呆れたという顔だが、瞳には自分の人生を自分で決められるが故の光が宿っていた。それがあれば、きっと大丈夫。

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