185話 供儀婚儀その8

「───もう始まってるってどういうことだよ!」


「俺に言うな! そっちこそ、何で記憶閲覧にそんなにかかったんだ!」


「知らねえよ、俺の魔術じゃねえ! 文句ならそっちの爺さんに言え!」


「わ、ワシにも分からぬ……。本来であればもっと要所のみかいつまんで見せるだけの魔術のはずが、どうしてあんな…………」


「ご、ゴーデリジー? ……気絶してる。当然だ、ずっと魔術を維持してたんだからな!」


「だから俺のせいじゃねえって! ああクソ、こんなふうに言い争ってる時間も惜しい! どうやったら出られんだここ!」


「あっ、待て、そっちは違う───」


「おい待て危な───」


「「ああああああああ!!」」






 俺は髑髏城グンスタリオの壁をまっすぐ蹴破る。式は屋外で実施とのことで、とにもかくにも表に出なければ始まらない。間に合わない。あの野郎が彼女をまでに!


 何枚目かの壁が外壁だったらしく、眩しい陽光と外気にさらされて俺は急停止する。見渡さなくても一目瞭然、《澱の天道》が降り注ぐあそこがそうだと示している。ああもう角度が悪いな、よく見えない、安否も確認できやしない!


 俺は肺いっぱいに息を吸い込んで、


「───ヒウィラァァァアアアアアアアア───ッッ!!」


 一つの名前だけを叫ぶ。


 叫んでから二つ気づいた。こんな大声で叫べば格好の的だということ、そして───


 返事を待つなんてまだるっこしいことが出来るはずもなく、俺はさっさと突っ込んじまうってこと。


 宙を駆ける。式場まで一直線に。


 上空に浮かぶ《澱の天道》から降り注ぐ奔流が幾筋か、方向を転じてこっちに降り注いでいるのが見ずとも分かる。あれを生身で受けるのはマズいとから、《光背》を展開して弾きながら降下する。


 あっちでロジェスを相手取りながら今の一撃をやるか、マイゼス。それくらいやるのはとはいえ、まったくおっかない野郎だぜ。


 とはいえ今はそっちより優先すべきお相手がいる。


「───ヒウィラ!」


「ユヴォーシュ……。───あなた今まで、どこで何をっ」


「その説明は後だ、ややこしいんでな! それより───」


 一帯はひどい有様だった。整然と並んでいた座席はひっくり返り、花壇は踏み荒らされ、絨毯は二人の余波で千々に切り裂かれている。踏み込みの衝撃であちこちひび割れてぐちゃぐちゃだ。


 そのどれもが、記憶の中で見た光景とおんなじだ。───毎度毎度、悪趣味なことをしやがる!


「ヒウィラ、もう分かってると思うけどあの大魔王はお前を《澱の天道》に喰わせるつもりだ! お前の体目当てだったわけだ、はっは!」


「何を笑っているのです! 貴方、そんな下等な冗談を───」


「悪い悪い。それどころじゃなかった。ともあれかくして結婚はご破談だ、さあ、じゃあ───お前はどうする、ヒウィラ」


「は?」


 きっとそんな問いを向けられるとは夢にも思わなかったのだろう。


 縋るような瞳を向けられると助けたくなる。俺が守ってやるとか気障な台詞を吐きそうになるけど、そうじゃない、そうじゃないだろう、ユヴォーシュ・ウクルメンシル。お前はいったい何をしにこんなところまで付いてきたんだ、忘れんな。


 俺は確かめるためにここまで来たんだろう。


「お前は自由だ。今この場でお前を縛るものなんてない。だから決めるのはお前だ。お前がどう思い、何をするか、教えてくれ」

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