184話 供儀婚儀その7

 ───どうすればいいか分からない。


 大魔王マイゼス、そしてずっと旅をしてきたユヴォーシュが、《真なる異端》だったなんて。


 《真なる異端》を裁く魔神の光臨、そこに巻き込んでの大魔王マイゼス暗殺計画。それが根底から失敗した今、ヒウィラには先の展望などこれっぽっちもありはしなかった。戦う覚悟などしていない、自らの命を捧げる覚悟だけだ。護身のために必要なだけの鍛錬は受けているが、ロジェスとマイゼスの戦う中に割って入れると思うだろうか。


 魔王アムラに命ぜられていたのは「機を見てを消し、大魔王マイゼスもろとも死ね」という内容だけだ。絶対に失敗するなと言われた厳命をしくじって、ならば諦めず作戦継続を───と思っても、それが正しいのか。それとも別の選択肢を採るべきか。


 分からない。分からない、分からない───誰か教えて欲しい。


「ヒウィラ様、ここは危険です……!」


「タンタヴィー……」


 彼らにも別命が託されている様子はない。つまり決断するならみな同じく、独断ということになるわけで、そんな覚悟など到底ない。


 何を間違えたのだろうか。


 機を誤ったのか? 大魔王マイゼスもただ嫁として欲したわけではなさそうだったから、あの距離まで近づけた時を狙ったのが勇み足だったか。いいや違う、そもそも手段として成立しない時点でいつ実行しても同じことだ。


 言い伝えが間違っていたのか? そうだとしたらもうどうしようもない。そんな不確定なものを頼りに一生を左右されて、こんな異界で果てるなんて、どこまでも悪い冗談。


 それとも、信じるべきではないのか? 大魔王マイゼスの言葉も、聖究騎士ロジェスの呟きも、どちらも嘘だとすれば。《真なる異端》と化せば伝承通りに魔神が光臨して、すべてを吹き飛ばして解決してくれるかもしれない。やってみるべきだろうか、いやしかし不発だったらどうする。そうなればいよいよ自分で決めねばならず、ああもう───


 すべてがのしかかってくる。


 その肩に、カヴラウ王朝の存続と、国土の安寧と、住まう者たちの生活が懸かっている。そんなものを背負っても、何とか耐えられた。命令に従うだけなら、命令のせいにできる。今は違う。それが震えるほど恐ろしい。


「もう、嫌だ……!」


 ヒウィラが頭を抱えて叫んだ瞬間、どこかから爆音が響いてきた。


 前方、大魔王と聖究騎士の死闘とは違う発生源。それはもっと遠く、髑髏城グンスタリオの一画で鳴り響いたのだ。


 混沌の渦中に、咆哮が響き渡る。




「───ヒウィラァァァアアアアアアアア───ッッ!!」

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