186話 悪嫁攫取その7
「わた、私に、どうしろ、と……」
「好きにしろ。そうすべきだ、お前の人生なんだから。これからも続いていくんだから!」
肩を掴む。弱弱しく身を捩っても離さない。横からムクジュが俺を止めようと、引き剥がそうと力を込めてくる。邪魔するな肝心なところなんだから!
「お前がどうしたいか決めるんだ! ヒウィラ!」
彼女がずっと気にかかっていた理由が分かった。彼女は少し前までの俺なんだ。どうすればいいか分からなくて、
今、大魔王マイゼスはヒウィラを《澱の天道》に喰わせんとしている。それはあの野郎が《天道》にあらゆる因子を蓄えようとしているからだ。《魔界》アディケードの魔族/カヴラウ王朝の姫/女性/《悪精》/《信業遣い》───そういった諸因子たちをこそ大魔王は欲している。これまで、《魔界》インスラの九大魔王たちも同じようにしてきたし、《魔界》アディケードの他国の姫たちもそうしてきたのを俺は観た。ヒウィラも生贄でしかないのは瞭然で、だからこんな婚姻は成立しないのは言うまでもない。どうするべきかなんて不確かに揺蕩っていて、どうしたいかヒウィラが我儘を言えるきっと最後の機会なんだ。
「───ヒウィラっ! 何だっていい、言え! どうしたいんだ!」
「ッ───」
瞬間、向き合う俺の目の前でヒウィラの瞳から火花が散った。呆然としていた彼女の中に発生した情動を俺は待つ。彼女はつっかえつっかえ、想いを形にし始めた。
「私、は……」
「私は、ぜんぶっ、全部なくなっちゃえばいい、ってッ」
「ずっとそう思って、でも! そんなの間違ってるって、そんなことすべきじゃないって、我慢してたしてたというのに! 貴方は! 引っ掻き回して、私の想いを掘り起こして!」
「貴方が嫌いです、ユヴォーシュ・ウクルメンシル! 貴方も、魔王アムラも、大魔王マイゼスも、みんな嫌いだッ!」
「大ッ嫌い! 皆いなくなればいいッ!」
「私をいいように使う人! 私を搾取しようとする人! 私をッ、私の根底を掘り起こそうとする人! 皆、全員、吹き飛んでなくなってしまえばいい───」
「よっしゃ、やってみようぜ」
「……は」
俺の即答に、ヒウィラはぽかんとした。鉄火場のただ中にいることも忘れて、命の危険や魔王に命ぜられた使命も置き去りにして、彼女がただの童女に帰ったみたいに驚いている。その方がいい。しかつめらしくお姫様の
ま、俺の勝手な言い分だけどな。思うだけなら自由だ。
「ヒウィラは俺たちをぶっ飛ばしたい、ならそうすりゃいい。それが自由ってもんだろ?」
どんと自分の胸を拳で叩く。
「勿論俺はそれに抗う。それが俺の自由だからな。やってみろよヒウィラ、受け止めてやっから!」
ヒウィラの表情に、怒りの色が滲みだしてくる。あっという間に頭に血が昇っても、《悪精》の蒼い肌は人族みたいに赤くはならないんだな。初めて知ったよ。
いい顔すんじゃねえか、お姫サマ。
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