176話 髑髏城下その5
「つーか別に、大魔王マイゼスが《
魔王相当者───《人界》流に言えば小神相当者。その言葉の意味するところはつまり、魔王一柱と聖究騎士一人ならば対等の戦力である、ということだ。大魔王がどれほどのものであれ、ロジェスとは同格。そして正直に白状すれば、それすらも疑わしい。
あのロジェスに勝てるものか。例え大魔王であっても。
そう、思ってしまう。俺を負かした相手であるという贔屓目が、まだ顔も知らない大魔王マイゼスよりもロジェスを上に据えてしまうのだ。大魔王だか統一者だか知らないが、その程度の輩に負ける《割断》であって欲しくないと、そういう心理。
だから、
「そうか、やはり聖究騎士が来ていたのか……。マズいな、これでは」
「ああ、《人界》の戦力をここで無為に散らすことになろうとは……」
アコランゼアとゴーデリジーが二人そろってロジェスの敗北を確信しているのに、むしょうに腹が立って仕方ない。───そのせいで、ふと引っかかりを覚えたのを流して、食って掛かってしまう。
「大魔王がどれほどのものか知らないが、聖究騎士を舐めるなよ。アレは生粋の超人なんだぞ」
「侮っちゃいない。だが、俺たちは魔王にも同じことを考えていたんだ。いくら《澱の天道》があろうとも、異形の者であろうとも、魔王たちと戦えばいずれはどこかで負けて死ぬだろう、と。それがどうだ、今や《魔界》インスラは統一されてしまった! 大魔王マイゼス=インスラは本物だ、あれはそう───魔神相当者なんだよ、ユヴォーシュ!」
アコランゼアの声は徐々に大きく、真に迫って必死になった。自分たちの世界を高く持ち上げたい、そんな気持ちは一片たりとて存在しない、混じりっけのない恐怖と畏怖。本物を見てしまったからこその実感に、どうしても俺は追いつけない。
「……だから言ったじゃろう、アコランゼア。最初から、言葉だけではアレの恐ろしさを実感できようはずもない、と」
「───ゴーデリジー」
割って入った彼は、熱くなるアコランゼアをクールダウンさせる役割かと思っていたらとんでもないことを言いだす。
「実際に見てもらう他ない」
「は?」
それは要するに、大魔王が暴れるのの生き証人になれってことか? そんな悠長な話があるかよ───そう口に出すより先に、
「ゴーデリジーの魔術、記憶を他者と共有する秘術。それがあれば、ユヴォーシュもあの悪夢、あの泥黎を疑似的に体感できるはずだ。《人界》へのメッセンジャーを務めてくれるかどうかは、大魔王マイゼスの脅威を目の当たりにしてからでも遅くない」
「……そういうことか」
未来の計画ではなく過去の再認、そういう話か。彼らの言を頭から信じている訳じゃないが、何かあれば《光背》で吹き飛ばせばいい。
「いいぜ、見てやるよ。その大魔王ってヤツの面、いっぺん拝んでおきたかったしな」
「それは重畳」
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