175話 髑髏城下その4

 隠し部屋に待ち構えていた老魔族が、アコランゼアを窘める。


「これ、アコランゼア。結論から入るのはヌシの悪い癖だ。順を追って説明すべきだ」


 彼はアコランゼアよりも話が通じそうなので、俺は彼と向き合う。彼もまた俺を正視すると、


「失礼した、《人界》よりの客人よ。ワシはゴーデリジー、そこのアコランゼアと同じ、亡国の臣徒よ」


「俺はユヴォーシュ。まあ……《信業遣い》だよ」


 神聖騎士かどうかは敢えてこっちから話すことでもない。俺自身、ややこしい経緯でここまで来たのを一々説明してやりたいとは思わないからな。それよりもまず、俺から聞くべきことは山積しているし。


「亡国、ってのは……」


「かつてこの地に存在したクィシナード王朝。ワシとアコランゼアはそこに仕えておった」


「グンスタリオはもともと、髑髏城なんて悪趣味な城じゃなかった。リーオザス陛下がご存命だったころは、白亜の城壁が美しい城だったというのに……」


「そう、それだよ。髑髏城って何なんだ。俺の知る限り、魔王の城だからってあんな戯画的じゃないはずなんだが」


 魔王城カカラムは豪奢なりに機能性と建築美を兼ね備えた建造物だったが、髑髏城グンスタリオは悪い冗談か、あるいは子供を怖がらせるおとぎ話の魔王の根城そのまんまだ。


「これは……大魔王マイゼスの仕業だ」


「恐るべきはマイゼス=インスラ、インスラ各地の魔王城をそれぞれ、魔王城グンスタリオに


「くっつけたあ?」


 そりゃあ確かに城内の内装様式がちぐはぐだったのも説明がつくが、いくらなんでも強引すぎやしないか?


「それを実現したのが、ヌシも見たであろう。中天に在る《澱の天道》よ」


「あの黒いヤツか。アレは一体何なんだ?」


「アレは《遺物》、《真なる遺物》だ」


 アコランゼアの言葉に既知感を覚える。いつか似たような言葉を聞いたような……何だったか。


 ああ、そうだ。《真なる異端》だ、思い出した。アレは神のを持たない《信業遣い》のことだったか。それと似たようなものなのか?


 言葉の意味を知っていると思ったのか、二人は気にすることなく説明を続ける。まあいい、後でロジェスあたりに聞くさ。


「対象を留め悪用する特性を持つ《澱の天道アレ》を用いて、大魔王マイゼスはとんでもないことをしたし、これからもするつもりだ。その一つが髑髏城グンスタリオってだけの話だよ」


「マイゼスが大魔王になれたのは、それがあったからか。アレさえなければ、彼は恐るるに足らないいちだったのか?」


「違う。まず、マイゼスはもともと魔王ではない。いちに過ぎなかったのが、最初の魔王を殺し、その座を奪い、遂に《魔界》インスラの全魔王を悉く殺し尽くせた理由の一つが《澱の天道》でしかないのだ。───彼には誰も勝てん。我らが魔王、リーオザス陛下すら勝てなかったのだ」


「勝ち目があるとすれば、残るは《人界》の魔王相当者───聖究騎士たちの総力を結集するしかない。だからお前にはここから逃げて、《人界》に伝えて欲しいんだ───さもないと、《魔界》インスラと、《魔界》アディケードと、《人界》のすべてが、大魔王マイゼスに奪い尽くされちまう!」


「……待ってくれ、話が急展開すぎる。一度にそんな勢いで説明されても追いつけない」


 何だって、マイゼスはもとはただの魔族で三世界を我が物にしようとしてるって? 《澱の天道》はじゃあ結局何なんだ?

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