095話 術士抹殺その6

「つまり、何だ? 俺たちは西にある……」


「サンザリーエアの安定《経》ですか」


「そう、そこを目指してるってことか」


「そうなるね。君も来るかい、ユヴォーシュ?」


「ああ。……うすうす察してるみたいだから白状すると、俺は二つ命令を受けてきてる。『バズ=ミディクス補記稿』の回収と、もう一体の義体の発注。どうせあんたのことだ、『補記稿』を奪還するまで義体を作る気はないとか言うんだろ? だから手伝うよ。さっさと回収して義体製作に取り掛かってもらわないとだからな」


 やれやれ、とカストラスは肩をすくめて、


「相変わらずだな、君は。どこまでも流されているというか、我がない」


「何だ、喧嘩売ってるのか?」


「そうじゃない。つくづくけったいな人だな、と感心してたんだ。君のような《信業遣い》は他にいないぜ、ユヴォーシュ」


「そうなのかい?」


「ああ、《信業遣い》って連中はどいつもこいつも、強烈な我と目的を持っている。《絶滅》のガンゴランゼをご覧、彼は異端と魔族を目の敵にしていて、そういった奴らを見ると目の色変えて殺しにかかる凶人だ。彼は言っていたよ、『お前らみたいな居ちゃいけないやつを皆殺しにするのが俺の夢だ』ってね」


 信じがたいかもしれないが、それが彼の夢なのだという。カストラスを拷問しながらガンゴランゼがそう言うとき、そこには一切の衒いはなかった。


「比して君は? 何か、見つけたのか?」


「ないよ。俺は自由に生きたいだけで、そのために自分を夢でたくはないんだ」


 満足げにバスティが溜息をついた。カストラスは果たして感心しているんだか小馬鹿にしているんだか、光の加減で判別がつかない。そしてウィーエは……。


「あ、あの、ユヴォーシュさんって……《信業遣い》だったんですか?」


 あれ、そう言えば。


「言ってなかったっけか」


「聞いてないです! そっか、だから理の庵の魔術師たちも制圧できたんですね……」


「ウィーエ、キミこそユーヴィーに言っていないことがあるだろう? 父祖とかカストラス家とか、そこらへんの話をさ」


「あっ、そうでしたバスティさん! ごめんなさい、つい驚いちゃって……。でもユヴォーシュさんも黙っていたならおあいこじゃありません?」


「そうだね、あれでユーヴィーも結構な秘密主義だから。隠し事大好きなんだよ」


「え、他にも、これ以上?」


 このまま放置していると、きっと二人はいつまでも話し続けて、どこまでも脱線していくのは目に見えている。俺は咳払いをして二人の話を遮ると、


「俺のことはいいんだよ。それより、カストラスの家について聞かせてくれ」


 ほらね、自分のことは喋らないだろう、みたいな顔をするバスティは置いておく。




「カストラス家は極西の祈祷神官の家系です。私、ウィーエことウィリエイオ・シーエ=カストラスは、その二七代目当主……になる予定の者です」


「随分長いこと続いているね」


「はい。そして、初代がこちらの父祖カストラスになります」


「は?」


 初代? 初代ってあの、最初って意味の初代か?


 きっと俺は目を剥いていたのだろう。これ以上ないほど分かりやすい、驚き顔の見本のような顔をしていたはずだ。意味が分からなかった。何を言っているんだ、説明しろと思ってカストラスに目線を送って。


 カストラスは、簡潔明瞭にただ一言、告げた。


「私は不老不死だ」

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