076話 西方進路その2

「ユヴォーシュ、俺と組め! あんな腐れ○○○野郎より百倍気に入った!」


 何だこいつ。


 このカリークシラとかいう街に来る途中、確かに絡んできた変なチンピラをぶっ飛ばしはした。どうやらそのチンピラはゲーリン兄弟というのの兄の方で、弟の方が仇討ちに来たもんだと思ったら妙なことを言い出した。


 何だろう、俺が悪かったのだろうか。あんなのにアルルイヤを抜くのも勿体ないと思って、横着して鞘に収めたまま振り回して鼻面にめり込ませたりせずに、さくっと斬ってしまったらよかったのだろうか。


 それもなんだかなあ。


「おーい、ユーヴィー。ちゃちゃっとカタをつけてくれ、うるさくていけない」


「そうだぞ。いつまでもそんな連中をのさばらせておいていいと思っているのか。さっさと黙らせろ」


 見上げるとそこに、グラス片手に野次を飛ばしてくるバスティとシナンシス。


 神々が上から目線でやいのやいの言ってくる。危ないから宿の窓を開けて身を乗り出すんじゃありません。


 まあ、二人……二柱の言うことも尤もだ。面倒だし、お帰り願おう。


「ガーリン兄弟とか言ったか」


「ゲーリンだ!」


「まあどっちでもいいや。俺は日中ずっと馬車を走らせて眠いんだ。帰らないなら力づくで帰らせるぞ」


「オウオウオウ、オウオウオウオウオウ」


 鳥か何かか?


 チンピラむき出しで絡んでくるなんちゃら兄弟の御託に付き合う気もないので、華麗な飛び膝蹴りを恵んでやった。取り巻きには適当に暴力グーパンを振るって散らす。


 カリークシラの住民たちが、畏れの混じった視線を俺に送ってくる。だから面倒だったんだ。だから関わらずにさっさと通り過ぎようと思ったのに、バスティが「放っておいていいのかい?」とか煽って、シナンシスまで「正しき行いをしろ」とか口を挟んできたから、余計な寄り道が余計な手間を生んだ。


 そもそもどうしてこんなことになったのか。俺は回想する───




◇◇◇




「何だって? お前がここに残る?」


「ああ。ロジェスはやる気がないみたいだが、ここには《魔界》との《経》が開いた。そう言ったな、ユヴォーシュ?」


 俺は頷いた。あのとき、《真龍》は最期の力を振り絞って《経》を開き、《魔界》の何者かがそれを安定させてしまった。目覚めた俺とニーオでどうにかしようと試みたが、結局打つ手はないという結論で落ち着いている。


 探窟都市ディゴールは、《冥窟》という資源を喪失した。引き換えに《真龍》の死骸という一時資源は獲得したし、おそらく今後はこれを切り売りすることとなるだろうが、それはそれとして。


 《魔界》への《経》が構築され安定してしまった以上、ここは《人界》防衛の最前線となる。


「そこに神聖騎士が誰もいないのはマズいんだよ。アタシなら、都市ひとつくらいなら直轄にできる」


 それは俺にはできないことだ。どうあっても信庁に属することを拒絶した俺では、神聖騎士の権力を振りかざしてディゴールの自治を守ることはできない。だから、


「頼む。───それで、俺は何をすればいい?」


「お、話が早いな」


「何年幼馴染やってたと思ってるんだ」


 この暴走娘ニーオが、タダで動くことはありえない。『お前のお気に入りのこの街をどうにかしてやるから』と交換条件をつけてくるに決まっていて、ならば鬱陶しく絡まれる前に先回りするが吉だ。


「アタシから依頼だ。学術都市レグマの禁書庫から盗まれた本を回収してくれ」


 ───あっ。

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