紹介

「今日こなした依頼クエストの依頼人なんだけど、しばらく一緒に暮らすことになった」


 夕食時のリビングにて、皆にカナリアラを紹介する。イヴィラとラディアの二人はまだ寝ているので不在だが、セリーナとソラは心底呆れていた。


「……まぁ、何か事情があったことはお察しします。ただ……あまりに若すぎるような……。幼さを魅力と感じる男性もいるとは聞きますが……」

「流石にその歳の女の子に手を出すのは狂気じみてない? まさか、女の子の成長過程を見守りたいとか変態的なこと考えてるの?」

「待ってくれ。諸事情あって連れてきたけど、俺は別に男女の関係になろうなんて全く思っちゃいない。本当だ。信じてくれ。俺はこんな年端もいかない少女に手を出す人間じゃないんだ」


 力説するが、二人は白けるばかり。特にソラ。


「……今はそう思っていても、これから一年後、二年後には、女性として扱ってる未来が見えるわ。カナリアラの方もまんざらでもなさそうだし。もう既に何かやらかしてるんじゃないの?」

「俺は何もしてないって……」

「あの、皆さんがラウルさんとどういうご関係なのかは存じませんが……皆さんからラウルさんを奪おうとかは全く考えてません! あたしが一人でラウルさんに憧れてるだけです! 皆さんを困らせるような真似はしませんから、どうか、滞在の許可をお願いします!」


 カナリアラが慌てると、セリーナは苦笑しながら言う。


「安心してください。あなたを追い出そうとか考えているわけではありません。理由があってラウルが連れてきたのなら、滞在していだたいて構いませんよ。

 それに、ラウルが複数の女性と関係を持つことも、近々認めていくつもりです。あなたが将来的にラウルとどういう関係になっても、あなたやラウルを責めるつもりもありません。

 せっかく一つ屋根の下で暮らすのですから、仲良くしていきましょう」

「はい……。ありがとうございます。あの、ところで、あなたはラウルさんとはどういうご関係で? リナリスさんの話からすると、懇意にしている薬屋さんですか?」


 セリーナの顔がひきつる。そして、何食わぬ顔で頬杖をついているリナリスをひと睨み。


「……そこの性悪エルフからなんと聞いたのかは知りませんが、わたくしはセリーナ・ファラスと申しまして、ラウルの恋人で、婚約者です」

「恋人で、婚約者……? えっと、じゃあ、リナリスさんは? 恋人ではないんですか?」


 カナリアラが二人を見比べて困惑顔。


「その金髪女の言うことに騙されるな。セリーナはただ願望を口にしているだけ。言い続けるうちにいつかそれが本当になるんじゃないかと期待している、可哀想な女なんだよ。わたしがラウルの恋人で、将来の妻だ」

「紛らわしくて申し訳ありませんが、リナリスさんはちょっと思い込みの激しい哀れな人なんです。自分だけでも強い想いがあれば、それで恋愛が成立すると考える危うい人でもあります。まだ恋人と呼べる関係でもありませんし、ラウルと結婚するのはわたくしです。強いて言えば、リナリスさんは側室候補です。ねぇ、ラウル?」


 セリーナが、背筋の凍るような綺麗な微笑を浮かべる。美しいのに、恐ろしい……。


「ま、まぁ、そうだな……。二人がどういう人物であるかはともかく、セリーナが俺の恋人で、近い将来結婚も考えてる相手だ」


 セリーナの発言を肯定することで、リナリスがむくれる。可愛いけど、そんな顔をされても俺の最優先はセリーナなのだ。……恐怖に負けているわけではないぞ?


「は、はぁ……そう、でしたか。その……つまり、ラウルさんは複数の女性と親しくなって、ハーレムを作ってらっしゃるということですね? なるほど……。優秀な冒険者にはそういう方が多いと聞きますし、やはりラウルさんはすごいんですね。それなら、もう少し人が増えても……」


 その続きは口にしなかったが、カナリアラはセリーナとリナリスに加わりたがっている様子でもある。本気……なんだろうか? あと数年して、考えが変わらないのであれば……げほんげほん。そんなことより、話を進めよう。

 

「えっと、とりあえず、どういう事情があるか、ご飯食べながら話すよ」


 促して、全員で夕食を摂る。今日の夕食は俺たちの帰宅前にセリーナが用意してくれていたもので、肉料理が非常に美味しそう。

 しかし、セリーナとリナリスが冷たい視線を交わし合うのが気がかりで、魔法も使っていないのに室内が凍えそうに寒い。カナリアラのことを説明しようと思うのだが、口を開くのもためらわれる。

 そんなとき、スラミがのほほんとしながら二人を仲裁する。


「もー、二人も、せっかく仲間が増えたんだから、いつまでも睨み合うのはやめようよ。誰と誰が肩書きの上で恋人だとか、結婚してるとか、たいした問題でもないじゃない。二人とも将来はラウルの子供を産んで幸せになる、じゃいけないの?」


 切なさや羨望混じりの言葉に、セリーナとリナリスがふと力を抜く。

 スラミはモンスターで、法律上俺とは結婚ができないし、スライムなので子供も望めない。肩書きがどうあれ、好きな人と結ばれることができて、子供も作れるだけで幸せじゃないか……。そんなことを言われて、セリーナもリナリスも少し冷静になったらしい。


「……結局のところ幸せを手にするのは間違いないのなら、細かいことはこだわらなくていいのかもしれませんね」

「……肩書きもまた気になるところではあるが、新人が来たときくらいはそのことは忘れようか」


 空気が和んだところで、俺はスラミに感謝の念を飛ばす。そして、まずはカナリアラに、セリーナとソラ、そして別室で寝ているイヴィラとラディアを改めて紹介。

 カナリアラは、ソラが俺の奴隷であることに特に驚き、さらにその痩せた体を心配した。


「ラウルさんの扱いが酷くて、ソラさんがそんな風になったわけではないですよね……?」


 それは違う、というのと、ソラの事情も少しだけ説明。幼いなりに色々と事情を理解して、ソラに対して励ましの言葉も口にしていた。


「あたしにはわからないことがまだまだたくさんあって、無闇に他人を気遣うのもおこがましいのですが……どんな生まれや育ちであっても、どんな経験があっても、幸せになることを諦めない限り、人は幸せになれると信じています」


 それを聞いて、ソラは複雑そうにしていた。年下で何も知らないお前に何がわかる……なんて思っただろうか。それとも、少しは何か価値のあるものを見いだしただろうか。

 カナリアラへの紹介が終わると、今度はセリーナ達に、カナリアラのことや出会った経緯、その家庭事情について話す。

 カナリアラに補足をしてもらいつつ説明を終えると、セリーナとソラがカナリアラに慈愛の籠もった笑みを向ける。


「どうやら大変苦労されたようですね。でも、安心してください。ラウルと一緒にいれば、もう余計な不安など抱く必要はありません」

「……女狂いだし、わけわかんないこともたくさんするけど、子供一人くらい軽く助けられる人ではあるから、気楽にやっていけばいいと思う」


 女狂いと言われるほどのことはしていないと信じたいが、信頼してもらえているのは嬉しかった。

 一方、カナリアラは何を思ったのか、泣きそうな顔ではにかんでいた。


「……あたしも、もう大丈夫なのかな、って予感はしています」


 こんなことを言われたら、俺も頑張らないわけにはいかないよな。簡単ではないだろうが、カナリアラのことはきちんと面倒見ないとな。

 お互いの紹介が終わったところで、食事も終わり、日が暮れかける。今日会った聖騎士のことなんかも話そうかと思っていたが、明日にしよう。

 それよりも。


「なぁ、セリーナ。もう日も暮れちゃうけど、少し二人で散歩行かない?」

「今から散歩、ですか? ええ……構いませんよ」


 怪訝そうにしながらも、セリーナは頷いてくれた。

 さて、なんだかセリーナとゆっくりするのも久しぶりな気がするし、夜の散歩デートを楽しもうか。

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