信用
本を棚に戻しつつ、この本達の内容について思いを馳せる。
「スキルを鍛えたら……いつか、この本達の解読もできるようになるかもな。もしかしたら、世紀の大発見になるかも。ダンジョンの作り方とかわかったりして」
ダンジョンを人工的に作れるとなればかなりの衝撃なのだが、カナリアラはきょとんとしている。
ダンジョンを作れたら、城に替わる要塞として活用できるし、付随して強力なモンスターや高価なアイテム、装備品も作れるだろう。軍事に容易に応用できる、非常に危うい技術だ。
「……内容次第じゃ、誰の目にも触れないうちに燃やした方がいいのかもなぁ」
「それはわたしも同感だが、焼くならホーエンハイムが書いた全ての書物を同時に焼く必要がある。『解読』スキルを持つ者は、世界的に稀有だがゼロではないはず。邪な心を持った者が力を手に入れたときのため、対抗手段を持っておいた方がいい」
「……そうならないことを祈るよ」
イメージとしては核兵器に近いのかな。一つの国だけがその技術を持てば、その国が世界を支配できてしまう。複数の国が持てば、危ういながらも支配には至らない。……世界の終末戦争が囁かれることにはなるかもだが。
それから、部屋にある本を軽く物色。一部はホーエンハイムの著書らしいが、それ以外は単純に魔法関連の書籍のようだった。
総じて、ここにあるものは宝の山であり、俺達がどうこうするのは手に余る、という結論に至った。
「この部屋のことは内密にして、色んなアイテムもそのままにしておこう。ルー達が帰ってきたら相談だ」
「それまではわたしの氷魔法でこの部屋を封じておこう。簡易的だが、並の連中では手出しできないようになる」
「おう、助かる。リナリスも色々できるよなぁ。すごいやつだ」
「感心するだけじゃなく、キスするなり態度で労ってほしいものだ」
「それとこれとは別だ。さ、そろそろ地上に戻ろうか」
四人で地上に戻って、地下への扉を閉じる。
床とほぼ一体化した扉に、リナリスが手を置く。
「
リナリスが魔法をかけて……しかし、それが何故か弾かれてしまった。
「……なんだ? わたしの魔法が無効化された?」
「もしかして、もう既に封印された状態になってる? 開けたとき、封印が壊れたわけじゃなかったのか?」
俺とリナリスで地下への扉を開けようとするが、できなかった。単純な破壊も難しそう。
一方で、スラミに開けてもらったらすんなり開いた。
「……スラミ、特別なことはしてないんだよな?」
「うん。してないよ。ほんの少しだけある隙間から入り込んで、中から開けてるだけ」
「……つまり、内側からは簡単に開くってこてか? 普通に考えれば生き物が通れる隙間なんかないから安心。スラミの変幻自在さは防御の想定外ってことかも」
それだけのことなのか、まだ他に理由があるのかはわからない。俺にはわかりようもないことなので、今は忘れよう。
「簡単には開かないならこのままでも大丈夫そうだ。……もうすぐ日も暮れそうだし、帰ろう。カナリアラもおいで」
「はい。お世話になります!」
カナリアラがまたペコリと丁寧に頭を下げる。
可愛いなぁ、とは思ったが、もちろん深い意味はない。この子を自分好みに育てようだなんて思惑は一切ない。ないぞ? 本当だぞ?
「……半年以内に何かしら手を出す、に一万ルク」
リナリスがボソリと呟く。
「ラウルだって、流石にそこまで性欲まみれじゃないよ! 半年は我慢できる!」
「ほほぅ、では、お前は半年は何もしない方に賭けるわけか」
「うん! 賭ける! お金持ってないけど!」
「お前になくてもラウルにはあるさ。お金はあるところから貰えばいい」
「それもそうだね! じゃあ、ボクも一万ルク!」
後ろで何やら賭けが始まっているのだが、これはどういうことだろう。俺、そんなに信用ないのかな? スラミだって、俺を信用してくれているようで、我慢できて半年程度と思っているようだし。
「……カナリアラ。俺は別にそういうつもりで招くわけじゃないからな。安心してくれ」
「……そうですか。あたしじゃまだ子供過ぎるってことですね」
はぁ、とカナリアラが溜め息。あれ? むしろ何かあってほしいのか? どうなんだ? いや、だからって十二歳に手を出すつもりはないぞ? 大人への階段を上り始めたばかりの体というのも捨てがたいと思わなくはないが、あと三年は……じゃなくて、うん、チガウチガウ、オチツケ。シンシタメノジュモン、イエスロリータノータッチ。
セリーナの笑顔と大きなおっぱいを思い出す。あのたわわな膨らみに包まれている状態を思い浮かべれば、余計な煩悩など打ち消される。毒をもって毒を制す。煩悩を煩悩で上書きだ。いや、そもそもカナリアラに煩悩など抱いていないからこれは話が違う? ……まぁ、いい。上半身が落ち着いたところで、早く帰ろう。
『しかるべきときにまたおいで……』
「え?」
どこからか声が聞こえた気がする。が、それはどうやら俺だけだったみたいで、他の皆はきょとんとしている。
「ん? どうしかしたの?」
「何か聞こえたのか?」
「どうしました?」
室内を見回すが、誰かがいる気配は感じられない。幻聴……ではないだろうなとは思うが、正体は不明だ。
「……なんでもないさ。たぶん、必要になったら呼ばれるんだろう」
俺を拒絶する意志はないらしいが、俺を招いてどうするつもりなのか。ホーエンハイムとは何者なのか。
「さ、もう帰ろう。お腹も空いたしな」
リナリスが特に何か言いたげだが、それは見なかったことにして帰路につく。
しかるべきときってやつがいつでどういう状況なのか不明だが、きっとそのときになればわかるんだろう。今は考える必要はあるまい。
館を後にして、帰宅途中にリナリスがカナリアラに言う。
「いいか、カナリアラ。今からいく家には、ちょっと性格のきつい金髪の女がいる。そいつの機嫌を損ねると大変だから、礼儀正しくしておくんだぞ」
「は、はい……。わかりました。気をつけます」
「おいこら、勝手にセリーナを性格きつい人にしてるんじゃねぇ。カナリアラ、普通に優しい人だから心配するな」
「はい……。でも、あたしが急に押し掛けてしまうのは事実ですし、どちらにしろ失礼のないように気をつけます」
セリーナは性格のきつい人ではない。が、また一人同居人が増えたとなったら、俺に対しては少々当たりが強くなるかもしれない。今でもたまに笑顔が怖いからなぁ……。
しかし、深い関係になるつもりで連れてきたわけじゃないと、セリーナならきっとわかってくれるはず。
……だよね?
うーん、今夜にでも、セリーナと散歩にでも出掛けようかな。セリーナと二人で話す時間が減っているのは確かだし、意図的にそういう時間を設けて、ゆっくり向き合う必要もあるだろう。
夜は寝るものと決まっているとはいえ、多少の夜更かしくらいは問題ない。ピアスも渡したいし、後でセリーナを誘おう。
夜の散歩に思いを馳せつつ、俺は夕焼け空の下を歩いた。
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