最期になるかもしれない

 その後、もう一人Sランクの冒険者がやってきて、かつAランク冒険者も五人集まってきた。

 町の戦力も充実してきたので、俺とスラミが残らなければならない理由もなくなった。ソラにも会いたいし、エミリアに納品もしなければならないので、俺はホルムに帰ることにした。

 リナリスは基本的に俺と行動を共にするつもりらしく、俺が帰るならついていく、と宣言。ギルド長は残ってほしがるかもしれないが、意志を曲げるつもりはないようだった。

 明日にはホルムに帰ろう、ということで落ち着いていた、夕方。

 町の食堂で、俺、セリーナ、スラミ、リナリスの四人で食事をしていたところへ、ルー達三人がやってきた。ギルドで作戦会議が行われていたはずだが、一旦終わったのだろう。


「ルー達も今から食事か?」

「うん。そう。いやー、結構一大事だから仕方ないんだろうけど、会議が長くてやんなっちゃうよ」


 ルーが心底うんざりという顔で吐き捨てる。この正直さは、やはりパーティーのリーダーには向かないかもな。雰囲気はエースという感じだ。

 三人が俺達のすぐ近くの席に着き、ルーが話を続ける。


「ラウル達は明日帰っちゃうのかな?」

「ああ、そうだな。ギルド長からは、しばらく滞在してくれるとありがたい、みたいには言われてるけど、俺達にも都合がある。ホルムにソラを残してるし、セリーナは薬屋を何日も空けられない。あと、エミリアに色々と納品しなきゃだ」

「そっかー。ラウルがいないと寂しくなるなぁ」

「ホルムに来てくれたらいつでも会えるよ。俺はだいたいそこにいる」


 俺が気軽に言うと、ルー達は少し神妙な顔。


「またホルムに行けたら、いいんだけどね?」

「……えっと、それは、今回の依頼クエストは、ルー達も危ないかもしれない、ってこと?」

「まーね。だって、Sランクモンスター三体の争いに介入するんだよ? 毒花の女王ポイズン・クイーンも、神殺しの狩人王ゴッド・ハンターも、天喰いの獅子帝グラトニー・ライオンも、国を脅かす脅威だよ? こっちの戦力にSランク冒険者二人と、ほぼSランクのあたし達がいるとしても、絶対安全とは言えない。そもそも、Sランクモンスターっていうのは、Aランク超えのモンスターは皆Sランクに分類されるんだよ? こっちの想定するSランクより、相手がずっと強いかもしれない」

「そっか……。そうだな。気楽な戦いじゃないよな」

「そうそう。まずは現状調査で混沌の住処カオス・ネストに入るけど、場合によってはそのまま戦闘に巻き込まれて、それっきり帰れなくなっちゃう可能性もある」


 ルーが、いつになく穏やかな笑みを浮かべている。なるほど、これが戦場に赴く戦士の顔なのだな、と妙に感心する。

 

「あのね、それで、ちょっとお願いがあるんだけどさ」

「ああ、なんだ? 俺にできることならするぞ?」


 そこで、ルーが小声になって、囁く。


「あたし達と、エッチしてよ」

「……ええ? どういう話?」


 俺も戸惑うが、セリーナが一番に眉をひそめる。


「どういう話って、決まってるでしょ? 最期になるかもしれないから、心おきなくラウルとエッチしてから戦場に行きたいな、ってこと。これはあたしとメアの希望。フィラは相変わらず一人でいっぱいするからいいって」


 フィラがさっと顔を赤くし、ルーの背中をペシン。


「いてて……。で、どう? ダメ? まぁ、これはラウルが決めることじゃないのかな? ねぇ、セリーナ。今夜だけ、ラウルをあたし達に譲ってくれないかな? 本当に、今夜だけだから」


 ルーに続き、メアも頭を下げる。


「私からもお願いする。私達のような旅をする冒険者は、男女の交わりをあまり経験できない。でも、決してそれでいいと思っているわけではなくて、やはり女として求めるものはあるんだ。

 相手は誰でもいいわけじゃなく、自分が惹かれた男がいい。こんなお願いは、今後するつもりはないし、そもそもできないかもしれない。もし、私達の旅がここで終わることになったとしても、せめて、この女の部分については、少しでも満たされていたい。だから……頼む」


 二人の真摯な頼みに、セリーナはすぐに返事ができない。様々な葛藤を抱えているに違いない。

 そして、最後に大きく深呼吸をして、告げる。


「……わかりました。そんな頼み方をされたら、断ることなんてできません。今夜は、お二人にラウルを預けます」

「本当に? ありがとう!」

「……ありがとう。セリーナとしては非常に複雑だろうに、願いを聞いてくれてありがとう。礼は、必ずする」

「……わたくしだけのラウルでいてほしいと思いましたが、なかなか難しいのですね。ちなみに、わたくしの一存で決めてしまいましたが、スラミさんもそれで構いませんか?」

「ここでダメとは言えないよー。そりゃー、次はボクだ、って思ってたけど、この状況じゃね……。皆のために命懸けで戦ってくれる人のお願いなら、ボクだって妥協するよ」


 スラミは唇を尖らせる。最近、一番我慢してるのはスラミかな……。申し訳ない。

 そして、ルーとメアもスラミに頭を下げる。


「スラミも、ありがとね」

「本当に感謝しかない」

「ボクは許すから、約束して。ちゃんと生きて帰ってくるって」

「……うん。生きて帰ってくるよ!」

「……そうだな。まだまだやり残したことはたくさんある。必ず生き残るさ」


 話がついて、ルー達も料理を注文し、食事を摂り始める。

 最悪、二人の最後の相手が俺になるかもしれないってことだ。本当に俺でいいのだろうか? すごく不安だ。とにかく、俺のできる限りの力で二人に満足してもらうしかないな。

 食事中、やや呆れ顔のリナリスがぼやく。


「ラウルも大変だな。後で、エルフの里に伝わる精力剤を調合してやろう」

「そんなものもあるのか……。ありがたくいただこうかな」

「効果は絶大だから、使いすぎには注意しろ。寿命が削られる」

「そんな劇薬なのかよ。怖いな」


 そんな形で寿命を減らしたくない……と思っていると、セリーナが対抗心を燃やす。


「そういう薬はわたくしが用意します。エルフ用のものでは体に合わないかもしれませんので」

「人間の知識だけで作ったものが至高とは限らない。どちらがより有効か、試してみるか?」

「……まぁ、いいでしょう。試しもせずに否定するのもよくないですね」

「薬を服用し、一晩で何度できるかを比べてみようか? ラウル、勝負の時、セリーナの薬だからって無理矢理頑張るんじゃないぞ?」

「そこまでしないけどさ。っていうか、どういう勝負だよ……」

「どちらがお前をより満足させられるか、という勝負だ。先に出会っただけの女が偉そうにするのも気に入らないしな」

「対抗心剥き出しだな……」


 リナリスにとって、これは恋心から来るものなのか、あるいは、何かに没頭することで心の隙間を埋めようとしているだけなのか……。

 たぶん、後者なんだろう。リナリスから、恋愛的な情熱はさほど感じない。好きだ、となったら、もっと乙女チックな雰囲気になると思う。


「えー、とりあえず、セリーナ、今夜のために、お願いしていい? あ、もう店が開いてないか」


 こっちでは店が閉まるのが早い。シフト制で朝から晩まで開いている店、なんてものはない。

 そこで、ルーが提案。


「ねぇ、何か必要ならあたし達が持ってるやつを使っていいよ。たぶん、そういう用途にも使えるんじゃないかな?」

「……どんなものをお持ちですか?」


 セリーナがその持ち物の詳細を確認。実物は宿に置いてあるそうだが、フィラは何がどれだけあるか、その内容をよく覚えていた。魔法使いって頭いいやつ多いけど、フィラもそうらしい。


「それだけあれば、代用品は作れますね。興奮作用は控えめですが、体力を回復させるものがあれば十分です」

「本当? よかった。昼間に目一杯してたし、どれだけできるか心配だったけど、普通にできそうで安心した」

「……まぁ、ラウルなら、そういう薬を作らなくても普通にできそうですが」

「わぁ。ラウルって結構強いの? なんだか楽しみだなぁ」


 ルーがどこか歪な笑みを浮かべる。もしかして、そっちのときには性格変わっちゃう感じ?

 それを見て、メアがたしなめる。


「ルー。あんまりやりすぎるなよ? 男というのは、人体の構造的に無尽蔵にできるわけではないようだからな」

「わかってるよぉ。セリーナの恋人だし、ちゃんと遠慮する。足りない分はメアにしてもらうし。っていうか、メアだって相当激しいじゃん。あたしのことばっかり言えないよ?」

「わ、わかっている。私もルーも、肉体が強靱すぎて通常の男ではついてこられない。ちゃんとわきまえる。同じ失敗は何度もしない」

「わかってるならいいけどねー? ま、ラウル、そろそろやばい、ってなったらすぐに言ってね? やりすぎは体に悪いからさ?」

「……了解」


 ルーとメアとの行為。少なからず楽しみではあるのだけれど、確かにこの二人、前衛だから体力お化けみたいなところがあるんだよな。俺、大丈夫かな?

 不安にもなるが、男として限界までは頑張らねばなるまい。ルーの笑みが不気味で、フィラが祈りを捧げているのが不安を煽るが、とにかく頑張ろう……。

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