夜遊び
ラディアが酔い潰れてしまったせいか、イヴィラに元気がない。夜中の散歩でもしてみるか、と誘ってみたが、気乗りしないと断られた。
何かしたいことはあるか、と尋ねてみても、生返事が返ってくるばかり。二人は双子らしいが、どちらが欠けてもダメなようだ。
「じゃあ、カードゲームでもしてみるか?」
「何それ?」
イヴィラはカードゲームを知らなかった。地球で言うところのトランプのようなもので、この国ではポピュラーな遊びの一つ。どの世界にも似たような遊びは生まれるものだ。
一般的にはシェラルと呼ばれているのだが、その理由はよくわかっていない。発案者の名前とも言われるし、カードを使った有名な占い師の名前がシェラルであったとも言われる。
俺は持ってきた荷物の中からカードを取り出す。なお、ちょっとした空き時間にスラミと遊ぶため、カードはいつも持ってきている。かさばるものでもないしな。
「それで何をするの?」
「色々できるぞ。やってみたら結構楽しいはずだ」
イヴィラに簡単にカードの説明をして、さらにゲームをいくつか紹介。最初は、そんなことして面白いの? という風に聞いていたが、実際に遊んでみるとかなり盛り上がった。こっち版の神経衰弱、七並べ、豚の尻尾、大富豪、ポーカーなどを順にやってみて、イヴィラは、すごく面白い、と目を輝かせた。
おそらくだが、イヴィラは非常に頭がいい。ルールをすぐに理解したし、プレイしながらカードゲームの戦略を勝手に身につけていった。好奇心旺盛で、かつ頭もいいとなると、将来は大変な傑物になるかもしれない。人間の味方でいてくれることを切に願うね。
ラディアがすぅすぅと寝息を立てているのも忘れて、イヴィラは俺達とカードゲームに明け暮れた。次第にカードゲーム以外のものにも興味を持ち始めたので、こっち版のチェスも教えてやった。駒と盤は持ち歩いていないが、スラミに作ってもらって代用した。
チェスにおいても、イヴィラは覚えが早かった。こっちでは娯楽が少ない分、俺も結構やりこんでいる方だけれど、俺の一月分くらいの成長を三時間程で成し遂げていた。これもまた、末恐ろしい。
「人間って面白いわね。こんなのを作り出すなんて」
ほぼ一晩中遊び倒して、イヴィラは満足げに微笑む。
「人間は、遊びを生み出すのが得意な生き物なんだと思う。人間以上に、多様な遊びを作り出す生き物なんていないよ」
こっちでは、人間以外にも知能を持つ生物が存在する。しかし、人間以外はあえて遊びを開発するような真似はしていない。人間というのは、こういう点でかなり特異な存在であるらしい。
「人間って、知るほど面白いわね。今日は目一杯遊んだからもういいけど、明日はまた人間のことを教えてよ」
「ああ、わかった。……にしても、ラディアはずっと寝てるな。大丈夫だよな?」
リナリスの血を吸ってから八時間近く眠りっぱなし。睡眠薬のような作用でもあるんだろうか?
「大丈夫よ。寝てるだけ」
「ならいいけど……」
「あーあ、ラディアの寝顔見てたら私も眠くなってきちゃった」
イヴィラが大きな欠伸を一つ。頭を使う新しい遊びを覚えて、疲労しているようだ。正直、俺も結構疲れている。
「ちょっと早いけど、私、もう寝るわ」
イヴィラがパタリと横になり、かと思えばすぐに寝息を立て始める。エネルギーゼロになるまで遊べるっていうのも、ある意味子供の特技だよな。
「……俺も寝るかな。あ、そういえば、リナリスはどうしたんだろう? 出て行ったきり帰ってこないな……」
あの強さを考えれば、悪漢に襲われるなどという心配はいらないとは思う。ただ、世の中何が起きるかわからないし、想定外の何かが起きたのかもしれない。
「ちょっと探しに行くか……? スラミ、出掛ける元気はあるか?」
「ボクは大丈夫だよ! ボク、ゲームで二人ほど頭使わないから!」
「なるほどな。だったら大丈夫か」
スラミの反応がおかしくて、思わず笑ってしまう。スラミは頭使うタイプでもないし、これで何も問題ない。
気を取り直し、リナリス探しに出掛けようとするのだが。
「あ、帰ってきた?」
宿の外、すぐ近くにリナリスの気配。木製の窓を開け、下を覗いてみると、リナリスがこちらを睨んでいた。
「睨まれるようなことはしてないけどなぁ……」
リナリスの恥ずかしいところを見てしまったが、あれは事故である。俺は悪くない。
そんなことを考えていると、リナリスがジャンプして二階のこの部屋までひょいと飛び込んできた。流石の身のこなしだ。
「おかえり」
リナリスが、相変わらず俺を睨む。視線だけでも射殺されそうだ。しかし、妙に息が荒いな。なんだろう?
「まぁ、疲れたろ? 一回寝たらいいんじゃないか?」
リナリスが、無言で俺に歩み寄る。そして、至近距離まで来て、さらに俺を憎々しげに睨んだ。
「えっと……どうかした?」
「これは……本当に、実に、どうしようもなく、不本意ではあるんだが、お前に、頼みが、ある」
「え? 頼み? 何?」
ぎりり、と歯を食いしばった後、リナリスが告げる。
「わたしを、抱いてくれ」
「は?」
どういうこと?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます