特殊なやつ
リナリスは、口惜しそうに唸る。
「説明が、いるか?」
「そりゃいるだろ。リナリスさんを抱くとか、急にそんなこと無理だって。ってか、俺にはセリーナがいるから、他の女性とそういうことはしない」
くっ、と悔しげに顔を歪め、説明を少々。
「……簡潔に言えば、血を吸われてから体の熱が冷めない。何かがわたしの中に入り込んで、ずっとわたしを刺激し続けている感覚がある」
「そこまでなるのか……。俺はすぐに収まったな」
「どうやら、何かしらの形で発散させないと、これはいつまでも続くようだ。そして、おそらくだが、わたしの体はラディアにこの疼きを解消してもらいたがっている。
だが、実際にそうすると、わたしはラディアの眷属となるだろう。それは御免だ。だから、お前が、わたしのこの疼きを解消してくれ」
「……この展開は予想してなかった」
短期間の付き合いとは言え、親しくなったリナリスのためなら、協力してやりたいと思う。でも、俺は今のところセリーナ以外の女性と関係を持つ気はない。
「一人じゃ、無理なのか?」
「ダメだった。これは一人では解消できないらしい」
だった、ってことは、試してはみたのね。
変な想像が膨らんでしまうが、それは無理矢理忘れる。
「スラミにしてもらうとか、他の男じゃダメ?」
「……わたしだって誰でもいいわけじゃない。お前なら……まだ、許せる」
「許せる……」
許せるというのは、少なからず好意があるということなんだろうか? でも、本当は俺となんかしたくないんだろうな。一番気になっている男性はヴィリクだろうし。
「……他に手はないか」
「わからない。考える余裕がない」
リナリスは本当に辛そうだ。変な妄想展開ではあるが、助けてないわけにもいかない。
「うーん……なぁ、抱くってのは、その、挿入はなしとかでもいいのか?」
「……おそらく問題ない。むしろその方がいい」
「わかった。スラミ、セリーナに状況を説明してくれる? 俺も気は進まないけど、放っておけない……」
頼んでみると、スラミは今まで見たことのない渋面を作る。
「むぅ……。ボクとはしてくれないのに、リナリスとはするの? なんか嫌だなぁ」
「その、これは緊急事態だし、医療行為みたいなものだから……」
「わかるけどさー……。なんか……ううん、とりあえず、セリーナに訊いてみる」
スラミが目を閉じて、三分程無言になる。その間も、リナリスは艶っぽい呼吸を繰り返していた。
「……セリーナに訊いてみたよ。寝てるところを起こされてびっくりしてたし、話を聞いてすごく神妙な顔してたけど、とりあえずリナリスとするのはいいんだって」
「そっか。それはよかった」
「けど、条件として、ラウルは目隠し、耳栓をして、口も塞ぐ。下半身の服は着たまま。挿入なし、射精もなし、だって」
「……うわー、すごい特殊な我慢プレイ」
セリーナとしては精一杯の妥協案なのだろう。絵的に俺が変態になってしまうが、セリーナの気持ちを考えれば従わざるをえない。
「リナリスさん、それでいいか? 俺にできるのは、手で、とかくらいかな」
「それでもいい。とにかく早くしてくれ。頭がおかしくなりそうだ……っ」
「わかった。場所もここでいいのか?」
「……本当は別の場所がいい。他のやつに見られたくはないし聞かれたくない」
「なら、スラミ、目隠しとかと一緒に、防音の空間も頼む」
「ん」
スラミが、体の一部を変質、変形させ、ベッド回りを膜で囲んで小部屋を作る。また、俺に目隠し、耳栓をして、テープ状のもので口も塞いだ。目は完全に見えず、音もほとんど聞こえない。言葉を発することもできないし、口でリナリスに触れることもできなくなった。この状態での交わりでリナリスの疼きを解消できるなら一人でしても大丈夫ではないか、と思ってしまうが、二人でするのと一人でするのはやはり違うんだろう。俺だって、一人でするのと女の子にしてもらうのじゃだいぶ違うからな。
俺の準備ができると、リナリスが俺をベッドに導く。それから、気づいたらコロンとベッドに転がされた。体術が巧みすぎて、自分が何をされたのかとっさにわからなかった。
リナリスは俺の上にまたがり、ごそごそと蠢く。見えないが、おそらく服を脱いでいる。
脱ぎ終わると、俺の上半身も脱がし、覆い被さって首筋にキスをしてきた。柔らかな唇が表面を這い、ぞくぞくと体が震える。さらに、リナリスの胸部の先端が、俺の胸辺りに触れていた。体で感じるリナリスの柔らかさが、どうしようもなく興奮を誘う。
俺からどう動けばよいのかわからずにいると、リナリスが俺の手を取って自身の胸に導く。想像よりも豊かな膨らみで、柔らかさと滑らかさが手に嬉しい。また、ピンと張った先端を摘まむように促され、従う。リナリスの吐息の質が変わった。
リナリスの経験値がどの程度であるのかはわからない。処女ではないらしいが、かといって経験豊富でもなさそう。気持ちよさに不慣れというのなら、こういう行為はしても、多少事務的な交わりに終始していたのかもしれない。まぁ、相手がよほど下手くそだった、という可能性もあるか。
セリーナに鍛えられた技術で、リナリスの喜ぶ刺激を繰り返す。リナリスは悶え、体をくねらせて、熱い吐息を漏らした。
その後も、俺は促されるままにリナリスの体をまさぐった。月明かりに形と温もりを与えたかのようなその肢体は、触れるだけでも感動を覚える代物であり、いつまでも肌を重ねていたくなった。
俺の下半身はギチギチになっていたし、リナリスの秘部もぐしょぐしょだった。その中に入りたい欲求を必死でこらえ、ひたすらに指での奉仕を続けた。
リナリスが快感を貪る姿を視認することはできなかった。しかし、その震える体、乱れた吐息、締め付け、濡れ具合などから、その様子のイメージが妙にリアルに浮かんだ。
セリーナとの約束がなければ、中に入らないまでも、自分で欲情を発散させてしまっただろう。
こんな、ある種の拷問のような我慢プレイは二時間程続いた。途中からリナリスは声を抑えることもなくなり、耳栓越しでも割と聞こえてきた。スラミが即席の防音室を作ってくれていなかったら、隣室には確実に音が届いていただろう。
快感に溺れる嬌声はとてもいやらしく、甘美であった。
いつか、リナリスを本当に抱きたいなどと思ってしまったが、こんなの一回限りだと自分に言い聞かせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます