フィラも?
その後。
事前の予告通りに三人での行為に及んだわけだが、これには非常に興奮した。ただ、二人の無尽蔵な体力についていくのは大変なことで、酷使したものがこの先使えなくなってしまうのではないかと心配になるほどであった。……これ以上の言及は避けよう。
三人で存分に楽しんだところで、トロンとした顔のルーがフィラに声をかけた。
「ねぇ、フィラは本当に一人でいいの? さっきから、ずっと欲しそうな顔してるじゃん。素直になりなよぉ」
「や、ウ、ウチは……でも……」
「何か恥ずかしい? それとも、恋人じゃないから嫌? 色々考えることはあるかもしれないけど……ラウルとなら、後悔することはないんじゃないかなぁ?」
「そう、かな……?」
フィラが俺を見る。瞳には欲情の色が見えて、求めているのはよくわかった。
既に限界を超えているのだが、そんな顔をされては頑張らないわけにもいかない。セリーナから預かった薬はまだ少し残っている。
ただ、俺からフィラを誘ってもよいものかは迷うところ。どうしてもと頼まれてするのなら、セリーナも仕方ないと許してくれるだろう。しかし、俺から積極的に誘うのは、セリーナが不快に思いそうだ。
悩む俺に、メアが助言を少々。
「フィラは、私達と違って自分から積極的に動くのが苦手なのだ。気に入った男がいても、ただ遠くから眺めているばかり。私達がよくサポートをしているよ。
フィラはそういう子だから、ラウルから誘ってやってくれないか?」
「……そういうことなら」
ルーとメアが積極的すぎて忘れがちだが、恋愛関係で消極的な女性もたくさんいるし、誰もが性的な欲望を赤裸々に語れるわけではない。
どちらかというと、フィラくらいの控えめさが、女性としては一般的かもしれない。
ならば、ここはあえて俺から誘うのも、フィラのためとなるのだろう。
「……フィラ。とりあえずさ、添い寝でもしない?」
「へ? そ、添い寝?」
「いきなり、さぁやろう、とはならないかもしれない。だから、とりあえず触れあってみて、それでその気になるなら、続きをすればいい。その気にならなかったら、そこで終わりだ。どう?」
「でも……」
フィラはなお迷いを見せる。でも、したくないのではなく、最後の一押しが欲しいというのはなんとなくわかった。
「正直、俺はフィラともしたいな。フィラは、知的で、可愛らしくて、本当に素敵な人だと思う。フィラのためっていうか、俺の願望になっちゃうんだけど、一回でいいから俺のお願いを聞いてくれないか?」
数秒待つと、フィラが小さくコクンと頷いた。
「あ、あなたが、どうしてもって言うなら、仕方ないですね。でも、まずは添い寝だけですよ?」
「うん。それでいい。ありがとう」
フィラがベッドに近づいてくる。
ルーとメアは、どこか愉快そうな表情で隣のベッドに移った。そこで二人は抱き合い、キスをする。どうやらまだ満足していなかったようだ。二人とも、素の体力だけでどこまでできちゃうんだ……。
フィラがベッドの端に腰掛ける。俺は、体力を回復させる薬を飲んだ後、フィラを背後から抱きしめた。こうしてみると、フィラは一番細くて折れそうな体をしている。一番女の子らしい体格かもしれない。
「嫌じゃない?」
「……はい」
「抱き締めたまま、横になってもいい?」
「……いいですよ」
フィラと共にベッドに横たわる。フィラはまだ少し固くて、緊張してるのがわかった。
「無理矢理はしないから、安心してくれ」
「わかってます……。あなたはそういうひとではありません」
「わかってもらえてうれしいね。急には無理だろうけど、ゆっくりリラックスできればいいな」
「そうですね……」
二人の体温を馴染ませるように、しばし密着して静かに過ごす。
それから、フィラが徐に口を開く。
「……そう言えば、あなたには命を救われたんですよね」
「ん? 俺がっていうか、セリーナとスラミが救ったのかな」
初めて会ったとき、フィラはモンスターとの戦いで負傷し倒れていた。それを治したのはセリーナとスラミだ。
「でも、あのときあなたが現れなかったら、ウチは死んでいた可能性が高いです」
「かもなぁ」
「あなたは、命の恩人ですね」
「たまたまだよ」
「だとしても、ありがとうございます」
「お礼は受け取っておく。にしても、三人がかりで倒せなかったあの黒い竜、とんでもないモンスターだよな」
「そうですね。あの黒い竜……
「そんな名前なんだな。しかも、モドキか」
「本物は、何百年も前に討伐されました。あれは人工的に造られたものだとおもわれます」
「ふぅん? というと?」
「……ホーエンハイムという錬金術師がいるのですが、ホーエンハイムは様々なモンスターを人工的に再現したと言われています。その作品の一つが、あの竜だったのではないかと考えています」
「へぇ……そうだったのか」
「一説には、あのダンジョンも、そもそもホーエンハイムが戯れに作り上げたと言われています」
「全然知らなかった」
「あまり知られていません。この話の真偽も、実のところ不明です。ただ、ダンジョンとは、賢者の石の一つだとも言われています。もはや石の形ですらありませんが、無生物でありながらどこか生命のようでもあり、途絶えることなく活動しています。つまりは、永遠の命がある、ということです。錬金術師の研究に通じるものです」
「へぇ、なるほど。俺の知らないこと、まだまだたくさんあるんだな。明日からの
「いいですよ。でも、こんな与太話に興味を持つなんて珍しいですね。ほとんどただの憶測ですよ。ホーエンハイムは異なる世界からやってきた特異な錬金術師だ、とかそんな話ばかりです」
「へぇ……面白そうだ」
俺がここにいる以上、ホーエンハイムが異世界人、という説もありえない話ではない。
もっと詳しく聞いてみたいところではあるが……。
俺達が話している間にも、隣からはピチャピチャと卑猥な音が聞こえてくる。
「……こんな話をする状況じゃありませんよね」
「だなぁ」
「ただ、ウチは、こんな話をバカにせずに聞いてくれる人が好きです。こんな話をすると、お伽噺と現実の区別がついていない、と言ってくるひとも多いのですが、あなたは違いますね」
「お伽噺ってのは、現実にあったことをモデルに作ることも多い。鬼退治の話が、政権の言うことを聞かない部族を倒す話をモデルにしてる、とかな。だから、お伽噺をただの空想と切り捨てるのは違うと思う」
「……そんなことを言ってくださる方は、初めてです」
フィラがもぞもぞと動き、俺の方を向く。そして、フィラの方から、恐る恐る俺の体に腕を回してきた。
「……あなたなら、いいのかもしれません。でも、メアが言った通り、ウチは、自分からお願いするのは苦手です」
リードは任せた、ということなんだろう。
「そっか。なら、任せな」
フィラの頭を数回撫でてから、ゆっくりとキスをする。そして、今までで一番優しく扱って、フィラの好きな部分を探っていく。
俺の知る誰よりも繊細な印象で、反応もよい。どこをどうしてほしいとかは口にしないけれど、求めているものはわかりやすかった。
また、フィラの好みを探るために色々と試してみたところ、多少強引に奉仕させられるのが好みらしい、というのもぼんやりわかった。
こんなところで判断するのもなんだが、メアと同じく、フィラも誰かのために尽くすことが幸せというタイプなのだろう。
俺としてはかなり限界を超えて頑張り、どうにかこうにかフィラも満足させることができた。
疲れ果ててそのまま眠りについたフィラの髪を撫でていると、隣のベッドからルーが小声で話しかけてきた。
「フィラがあんなに素直になるなんて珍しいなぁ。それだけラウルの腕の中が心地よかったんだね」
「満足してもらえて嬉しいよ」
「あたしも見てて嬉しくなっちゃった。
全部終わって、またなんでもなかったみたいに帰ってくるから、そのときには、またあたし達と遊んでよね?」
「了解だ」
「今度は、セリーナとスラミとリナリスも交えて、一対六でやってみよっか?」
「……素晴らしすぎる提案だが、流石に体がもたないよ」
「帰ってくるまでに鍛えといて」
「ここは鍛えてどうにかなるもんじゃないんだよ……」
「男の子が泣き言を言わないの」
「厳しいなぁ」
「あはは。ま、いざとなったら手とか口で頑張ってもらおうかな」
「それで勘弁してくれ」
「ん。あーあ、もっとたくさん話したいけど、流石に徹夜はよくないよね。明日から大変になりそうだし、今夜はそろそろ休むよ。本当にありがとう」
「こんなことしかできなくて悪いな」
「いいんだよ。人にはそれぞれ役割ってものがあるでしょ? あたし達は闘うし、ラウルは避妊具を普及させるし」
「俺、世間では完全に避妊具の人?」
「うん。そう」
「おぅ……。まぁ、いいけどさ。皆、俺の避妊具を使って、気をつけて励んでくれ」
俺も疲れが出てきたか、だんだんと眠くなってきた。ルーもうとうとし始めていて、メアは既に寝息を立てている。
「おやすみ、ラウル」
「……ん。おやすみ」
目を閉じると、すぐに意識が薄らいでいく。
「いつか、あたしが旅を終えるときが来たら……ラウルの子供を産みたいな」
その言葉に、なんと返事したかは覚えていない。たぶん、いいよ、とでも言ったんだろう。
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