メアの番

「あー! 気持ちよかった! ラウル、ありがとう!」

「終わった途端元気だなぁ」


 ひとまず、ルーとの初回が終わった。まだまだ夜は長いぜ、という話ではあるのだが、ルーは割と満足げだ。

 余韻のようなものもなくベッドから離れ、ルーはメアを促す。


「さ、次はメアの番だよ! ラウルは上手だから、期待してね!」


 改めて視線をやると、メアはまだ鎧を脱いだ段階だった。脱がせる楽しみが残っていて嬉しいね。とか考えちゃうのはセリーナに悪いよなぁ。

 それはさておき、部屋の隅では、フィラが大きく脚を出した状態で、くたっとしていた。股間に手を当てていなければ、大事な部分も見えちゃいそう。どういう状況かはお察しするに止める。恥ずかしがりなんだか、案外オープンなんだかわからんな。

 一方、メアはこちらにやってきて、ベッドの端に腰掛ける。


「……すぐに、できるか?」

「少しだけ休憩いれたいかな」

「わかった。なら……その間、私を後ろから抱きしめてくれないか?」

「ああ、いいよ」


 メアの背後に回り、肩辺りで腕を回す。ルーはかなり華奢だったが、メアは身長も高めだし、体格も割としっかりしている。いかにも剣士という感じだ。

 俺がぎゅっと力を込めると、メアが、ほぅ、っと心地良さそうに息を吐く。


「……男に抱きしめられるのは、久しぶりだ」

「恋人じゃなくて悪い」

「それは、仕方ない。私とラウルには、まっとうに愛を育むような時間はない」

「ほとんど会えないもんなぁ。……なぁ、メアは、自分の幸せを優先しようと思わないのか? 誰かのために生きるより、自分のために生きる。それでいいじゃないか」

「……甘美な誘いだな。私も、自分のために生きたい気持ちはある」

「俺は、それでもいいと思うけどな。もちろん、自分のためだけに生きればいいとは思わない。でも、自分の幸せを犠牲にしてまで、他人に奉仕しなくてもいいんじゃないかな。他人にそこまでの価値はあるのか?」

「ラウルの言いたいこともわかるよ。多くの人は本当に身勝手だ。私達が誰かを救ったとしても、強いやつは英雄になれていいよな、などと嫉妬をぶつけてくることもある」

「そっか……。辛いな」


 その光景が容易に目に浮かぶ。それでもまだ誰かのために戦おうとするのは、類い希な尊さだと思う。


「辛いときはもちろんある。だが、それでも私はこの世界が好きだ。ときに酷いものを見ることになったとしても、尊く、美しく、神秘的なこの世界が、好きなんだ」

「だから、誰かのために戦うわけか」

「ああ、そうだ。

 ……ある意味、これは精神的な病なのかもしれない。自分のために生きたって、私は心底幸せだとは感じられないんだ。誰かのために己の幸せを犠牲にすることに、どこか歪んだ幸福感さえ得ている。己を犠牲にできる自分はなんて素晴らしいんだろう、とかな」

「そりゃ、確かに歪んでる。正直言えば、少しだけ不憫だ」

「だろうな。こんな形でしか幸せを感じられないなんて……。私は、この先もずっと、色んな幸せを手放して生きていくんだろう。でも、他の生き方など考えられない」

「そっかー……。どうしても、幸せと不幸がセットになっちゃうわけだ。俺には、どうしてやることもできないなぁ」

「ラウルにそこまでは望んでいないさ。ただ、今夜だけは、私が私の幸せを追求できるように、手助けしてほしい」

「了解だ。……ちょっと、触っていい?」

「……いいぞ」


 俺は手を動かし、メアの豊かな膨らみを鷲掴みにする。ううん、セリーナといい勝負……。


「っていうか、これ、俺が幸せなやつじゃん」

「そう思ってもらえるなら、私も嬉しい」

「聖女か」

「ただの戦士だ」

「なら、今夜はその戦士をお休みしよう。メアにだって、戦士じゃなかった頃はあるだろ? そのときの気持ちを、少しだけ思い出せばいい」

「……そうだな。たまには、戦士をお休みしても、誰も文句は言うまい」


 胸の感触を堪能したのち、ゆっくりとメアの衣服を脱がしていく。

 全てを脱がしきり、改めてその肢体を眺めると、ギリシャ彫刻のような美貌に圧倒される。セリーナは柔らかな曲線が多いのだが、メアは女性的な柔らかさに加えて鋭さもあり、美を追求した芸術品のように見えた。


「……型どりして美術品として展示したいな。戦の女神とかタイトルつけて」

「それは、流石に恥ずかしいな」

「恥ずかしがる必要ないさ。これだけ美しいんだから。堂々としていればいい」

「……あまり褒めるな。照れる」

「褒められ慣れてるだろ?」

「そうでもないさ。男との経験が少ないのだ」

「そっか。そのうちの一人になれたこと、本当に光栄だと思うよ」


 メアをベッドに寝かせようとして、逆にベッドに寝かされる。


「私は、上から行くのが好みだ」

「はは。力強い印象を裏切らないね。好きなように振る舞ってくれ」

「ありがとう。全てを受け止めようとしてくれるお前には、感謝しかない」


 メアが覆い被さり、キスをしてくる。それはどこか控えめで、たどたどしい。自信があるように見えて、心のどこかに臆病さを隠しているようだ。ギャップが可愛いじゃないか。


「もしかしたら、私も、お前を好きになってしまうかもしれない。それでも、いいだろうか?」

「……ああ、いいぞ」


 こんなことやってるから、リナリスには、甘い、と言われてしまうんだ。


「ありがとう」


 そして、今回はメア主体で行為が進んで、俺達は順調に繋がる。

 その最中、だんだんとメアにエスっ気があることもわかってきた。まだいくな、まだいくな、そのぎりぎりでこらえてる表情がたまらん、とか。俺は経験人数少ないから、こういうのは初めてだったな。とにかく俺は頑張った。

 普段はメアとルーが営んでいるはずなので、ルーは逆にエムっ気があるのかもしれない。わからん。

 ともあれ、ちょっと強引に攻められつつも、でもやっぱり気持ちいい時間が過ぎて……俺達の行為は無事に終わった。

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