プリンセス 4
戦いに区切りがつき、イヴィラ達がまずそれぞれの体を再生させる。失った手足も完全に元通りになって、特に体が痛むということもなさそう。その再生力には驚嘆するばかり。
傷が癒えたからか、二人は初対面のときの無邪気な雰囲気を取り戻している。特にラディアは、リナリスに殺されかけたことなどすっかり忘れ去ってしまったかのようだ。
「ラウルに免じて、ひとまずはお前達を生かす方向で考える。それで、ご主人様とは一体どういうことだ? お前達は何をしに人里にやってきた?」
リナリスの問いに、先に口を開いたのはラディア。ただ、口調も声も似ているので、聞いているとどっちの言葉かわからなくなるな。
「あのね、私達の森を統治してた魔狼様が死んじゃったの」
「そしたら森が荒れ始めて、魔狼様の次くらいに強かった三人が、森を統治しようと戦い始めたの」
「ママもそのうちの一人なんだけど、ママは本当は静かに暮らしたいんだ」
「私達も一緒に戦おうとしたのに、ママは、危ないからって私達に避難するように言ったの」
「それでね、森の外に出て、誰かご主人様を見つけなさい、って。私達は森の外のことを知らないから、上手く導いてくれるひとがいいんだって」
「でも、どんなひとがいいのかわからないから、とりあえず私達より強いひとがいいよねー、って二人で話し合ったの」
「あとね、ママは、人間は殺すなって言ってた。人間を殺すと、怖い冒険者が討伐しにくるんだって。人間は敵に回しちゃダメなんだって」
二人の無邪気な説明で、なんとなくは状況がわかった。
導いてくれるご主人様を探すというのも、ある意味正解かもしれない。が、自分達より強い相手が良い人間とは限らない。かなり危うい行動ではあったと思う。
ただ、想像するに、森での生活しか知らないこの二人に、母親は細かい指示を出すことが出来なかったのではなかろうか。事細かに説明している暇はなく、とりあえず森から逃がすことが最優先で、あとは運に任せるしかない……とか。
リナリスもある程度納得したようだが、悩ましげに呟く。
「……噂程度でしか聞いたことがないが、
状況はわかったが、これは危険な兆候かもしれん。Aランクモンスターでさえも逃げ出すとなれば、様々なモンスターの生息域が変わっているだろう」
「……そいや、ワイバーンとかもホルムの周辺じゃ見ないよな。勢力図が変わってるのかも」
「そうだな。それに、こいつらのママというのは、Sランクモンスターの
「うーん……将来のことは心配だけど、どうも俺には手に負えない話の気がするな。俺の実力的に、逃げてきたモンスターが人里に被害をもたらすなら、それを退治するくらいか」
「……正直、この件はわたしにも荷が重い。ギルドに報告し、対応を求めよう」
「だな。ルー達が忙しくなりそうだ」
Sランクパーティー相当の三人なら、このレベルの話の対応に駆り出されるかもしれない。
ルー達の心配をしていると、ラディア達が口を開く。
「ねぇねぇ、ご主人様よりも強いひとがいるの?」
「だったら、ママを助けてあげてよ」
「ママは魔狼様が好きだったから、ママが勝てば、魔狼様が治めていたときと同じような安定した森になると思うの」
「他の二人は、できればもっと支配する範囲を広げたいと思ってるわ。人間にとっても都合が悪いんじゃないかしら?」
「
モンスターの名前を聞いて、俺も背筋が凍る。最近では聞かないが、国を滅ぼすようなモンスターの名前だ。
この二人の母親を助けるのが、人間としては一番いいかもしれない。
「……まぁ、この先どうするかはギルドに任せようか」
「そうだな。ところで、この二人がわたしをご主人様と呼ぶのだが、これはどうすればいいのだ? わたしはご主人様になりたいとは思っていない。ラウルが生かせと言ったのだから、責任を持ってお前がご主人様になるべきだろ」
リナリスの言葉に、イヴィラ達はあからさまに嫌な顔をする。
「えっと、俺が責任を持つべきところなんだろうけど、二人の気持ちも尊重してやってくれないか? モンスターだし、ご主人様は強いやつじゃなきゃ嫌だって気持ちはあるんだろ。俺はイヴィラに負けたし、ついでにスラミとは決着つけてない」
「……お前が助けたくせに。いっそ他のやつに引き渡すか……?」
「いや、下手なやつに任せるより、リナリスさんが導いてやったほうがいいと思う。Aランクモンスター二人を従えるなんて、人によってはどれだけでも悪用できる。信頼できる人間じゃなきゃ、ご主人様は任せられない」
「……わたしなら、ひとまず悪用はしないと思っているのか?」
「しないだろ? いったいどんな悪用をするんだ?」
「まぁ、悪用方法を考える頭がわたしにはないな。
しかし、わたしは他人を導けるようなニンゲンではない。自分のことさえよくわからないのに。やはり、お前が導け」
「うーん、でも、俺に従ってくれるかなぁ……」
強いて言えばルー達に任せるという手もあるかもしれない。しかし、何かと忙しそうなパーティーでもある。いや、それを言うならリナリスも一緒か? 実力を考えないなら、俺が適任かもしれん。基本は気ままな生活だし。
俺がなお渋っていると、リナリスが二人に言う。
「おい、お前達。わたしをご主人様とするなら、魔法で隷属の契約を結ぶ。そして、最初の命令は、この男の命令に従うことだ。それができないなら、わたしはご主人様になどならない」
「えー? そんな弱っちいやつの言うことを聞くの?」
「嫌だなぁ。でも、ご主人様の命令なら従わなきゃいけないのかな?」
「うーん……。気は進まないけど、他のご主人様を探すのも面倒だよね」
「私達より強いひとなんてそうそういないって言うしね」
「まぁいっか。じゃあ、とりあえずその男についていくわ」
「でも、こいつダメだなぁ、って思ったらご主人様のところに戻るわ」
とりあえず納得してくれた。案外物わかりがいいな。あるいは、あまり深く考える力がないのかもしれない。
「ということで、こいつらはラウルに預ける。お前、ソラやセリーナを守るための護衛が欲しいだろ? 丁度いいじゃないか」
「……そう言われりゃそうだが、人間の町に馴染ませるための指導が大変そうだ」
「だとしても、メリットの方が大きいと思うが?」
「まぁな。ってか、この二人に守ってもらうとすると、俺達はリナリスさんに守ってもらってるってことになるのか。それ、今後ヴィリクには逆らえなくなるってことじゃないか?」
「……そんなに都合よくこの二人を使うつもりはない。ヴィリク様にとって都合が悪いことがあったとしても、お前から無理矢理二人を取り上げる真似はしない」
「それはありがたいね。……仕方ない。とりあえず俺が面倒見るか」
とはいえ、俺だけでどうにかできるものでもない気がする。エミリアも含め、色んな人に協力してもらう必要がありそうだ。
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