確認

「一緒に依頼クエスト受けるなら、ステータスを教え合わないか? 相手はAランクモンスターなんだし、リナリスさんだって楽勝じゃないだろ? お互いのステータスくらいは知っておいた方がいいと思う」


 俺の提案に、リナリスは渋い顔。俺に教えたくないという感情が全面に出ている。

 しかし、己の感情より合理的な判断を優先したようで。


「……いいだろう。非常に不本意だが、お互いに命がかかっている。ただし、お前が他言したとわかったら、わたしは私的な制裁を加える」

「おー、それでいいぞ。俺は誰にも言わない。あ、スラミは例外な。一緒に戦うパートナーだから」

「……避妊具を作るだけじゃないのか?」

「ちげーよ。スラミ、一旦人型になってくれ。その方が早い」


 促すと、スラミは即座に肩から飛び降りて人型に変身。青髪ツインテールの美少女が現れた。ちゃんと服も着ている。

 リナリスとエニタが驚きの表情を浮かべた。


「よっと。ああ、やっぱり人型もいいなぁ! スライムとしてラウルにくっついてるのもいいけど、人型の方が色々できて楽しいや!」

「……人間に化けるスライム。しかもしゃべる。珍しいな」

「まぁな。変な結晶核食ったらできるようになった」

「なるほど。スライムの能力の限界突破……。それもまたスライムマスターの隠れた能力なのかもしれない。通常のスライムであれば、例え特殊な結晶核を与えようと、そんな能力を開花させるまでには至らない」

「あ、そうなの?」

「そうだ。避妊具を作るため、ヴィリク様はいくつか実験をした。モンスターテイマーにスライムをテイムさせて成長させるとか。それで避妊具を作らせようとしたが無理だったのだ」

「ふぅん。俺とスラミって結構特別だったんだな。まぁ、とにかく、ステータスだ。あ、ちなみに、ここで計ってもいい? スラミのも見たいし」


 エニタに尋ねると、快く頷いてくれた。

 計測用の魔法具を持ってきてくれて、それをテーブルに置く。台座のついた水晶玉で、水晶部分に触れるとステータスが表示される仕組み。

 俺としてはエニタがいても問題ないとは思ったのだが、リナリスが退出を促した。たとえギルド職員だろうとステータスが外部漏れるのは良いことではないので、それも仕方ないことか。

 なお、ランクが上がるときなどには、審査基準としてステータスをギルド長に報告する義務がある。そのため、ギルド長だけはステータスを知っている。

 エニタが退出したところで、まずは俺がステータスの確認。


「多少は成長してるかねー?」


 思えばあの黒い竜も倒した後には一回も計っていない。多少は上がっていてほしいところ。

 前回計ったときのメモと見比べつつ、データを更新。


 職業:魔法剣士

 得意属性:なし

 体力:1,270→1,514

 物理攻撃力:346→431

 物理防御力:320→402

 魔力:1,479→1,680

 魔法攻撃力:543→647

 魔法防御力:518→582

 スキル:スライムマスター


「多少は上がってるな。次、スラミもやってみてくれ」

「わかったー。いいよー」


 種族:スライム

 職業:なし

 得意属性:なし

 体力:1,358

 物理攻撃力:398

 物理防御力:523

 魔力:2,438

 魔法攻撃力:453

 魔法防御力:655

 スキル:なし

 モンスターランク:B


「……やっぱりスラミはすげぇな。結構分割してる状態でもこれか。一つになると俺より強いな」

「えへへ。ラウルのおかげでここまで成長したよ。これからももっともっと強くなって、ラウルのために頑張るからね!」

「くぅ、健気なやつっ。これからも宜しくなっ」


 スラミの頭を撫でてやると、スラミはこの上なく幸せそうな笑顔を見せてくれた。スライム型もいいが、この女の子型もいいな……おっと、あまりこんなことを考えているとセリーナに何を言われるかわからんな。自重自重。

 そんな俺達を、リナリスは若干冷ややかな目で眺めている。が、特に感想を漏らすわけでもなく、淡々と続ける。


「……ステータスとしては二人ともBランク相当か。思っていたよりは使えそうだな。放っておいても死にはしないか」

「だとしても、Aランクモンスターと戦うには力不足さ。無理矢理引っ張り出そうとしてるんだから、上手くサポートしてくれよな」


 女に守ってもらう男、というのも情けないところであるが、単純に体格差では強さは計れないので、こういうこともよくある。


「それはわかっている。それと、わたしのステータスだが……」


 リナリスが水晶に触れる。


 職業:魔法弓士

 得意属性:氷

 体力:2,635

 物理攻撃力:563

 物理防御力:513

 魔力:3,879

 魔法攻撃力:970

 魔法防御力:897

 スキル:氷の魔女


「……流石、Aランクは違うなぁ」

「しかし、お前達二人でわたし一人分くらいの力はあるだろう。死なない程度に頑張ってくれ」

「はいよ。ちなみに、このスキルってどんな効果があるんだ?」

「氷属性の魔法がより強力になるのと、特殊な氷魔法も使用可能。基礎的なステータスも全体的に底上げされている。あとは、氷属性の精霊を呼び出せる」

「なるほど。強力そうだが、氷特化なのは戦う相手を選ぶかな?」

「そうだな。しかし、対策はしてある」


 リナリスが腰に差した二本の短剣を抜く。オリエンタルな印象の美しい装飾が目を引くが、それ以上に、刃の 部分が緑と黄にほんのりと発光。魔剣であるようだ。


「風の魔剣、風麟フウリンと、雷の魔剣、雷麒ライキ。魔力さえあれば、風と雷の強力な魔法が使える。氷と相性の悪い相手でも、この魔剣があれば大抵対応できる。それに、わたしとて氷以外の魔法が使えないわけではない。氷一辺倒の極端な戦い方はしない」

「なるほど。そりゃ頼もしいな」

「ともあれ、これはまだ数字を確かめたにすぎない。実戦の様子は道すがら確認していこう」

「わかった。じゃあ、簡単に旅支度して、早速行くか」

「そうだな。毒花の姫君ポイズン・プリンセスがいつ人里に来るかわからない。急いだ方がいい」

「ちなみにだけど、リナリスさんって、ヴィリクに雇われた護衛だよな? この依頼クエスト、完了まで少なくとも三日くらいはかかると思うけど、離れててもいいのか?」

「……わたし以外にも護衛はいる。だいたい、護衛をしていても敵なんてほとんど来ないのだから、ずっとそればかりしていては腕がなまる。交代制にして、実戦での鍛練に努める期間も必要なのだ」

「それもそうか。じゃ、悪いが、同居人達にしばらく家を空けることを伝えてくるから、少し待っててくれ」

「……東門に竜車を用意してある。終わったら来い」

「手際がいいな。すぐに向かう」


 リナリスと共に部屋を出る。すると、エニタが妙にそわそわしながら待っていて、俺を見るなり駆け寄ってくる。


「ラウルさん、気をつけてくださいね。お強いのでしょうけど、敵も強いはずですから……」

「おう。わかってる」

「それで……これを、もらっていただけませんか?」


 エニタが、小さな木片を差し出してくる。三センチ四方くらいの板で、そこには複雑な模様が描かれていた。僅かに魔力が込められているのも感じる。木片の端に青い紐がつけられていて、長さから察するに腕や足に巻くのではないかと思う。


「私の家系に伝わるお守りです。少しですが、持ち主の能力を高める力もあります」

「へぇ、ありがたいね。もちろんもらってくよ」


 エニタが僅かに頬を赤くして微笑む。女性の笑顔からはやはり元気がもらえるね。


「……ありがとうございます。通常は腕に巻くのですが、邪魔になるようでしたら足にでも」

「まぁ、足が無難かな。腕は邪魔になるかも」


 しゃがんで足に巻く。効果のほどはまだわからない。もしかしたら能力の向上効果は一パーセント未満なのかもしれないが、その僅かな違いが命を救うこともある。大事に使わせてもらおうか。


「あ、そうだ。別件なんだけど、Aランクのフェイとイリヤって最近見た?」

「え? ええ、今日もいらっしゃってました。依頼クエストの都合で二、三日は帰ってこないかと思いますが」

「あー、そっか。俺より先に帰ってきたらさ、ラウルってやつが少し話をしたがってるって伝えてくれない? 向こうの都合に合わせるからさ」

「わかりました。お伝えしておきます」

「ありがとう」

「あと、念のためですが、今回の依頼クエストについては、詳細は内密にお願いします。混乱を招く可能性もありますので……」

「わかった。じゃ、またなー」


 俺とエニタがやり取りしている間に、リナリスはさっさと行ってしまった。即席とはいえ今回はパーティーを組むのだから、もう少し仲良くしてくれてもいいと思うけどなぁ。

 呆れつつ、スラミを一旦スライム型に戻して肩に乗せ、ギルドを後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る