忘れる
ぼちぼち話も落ち着いて、三人が薬屋を後にする。しばらくはこの町に滞在する予定らしく、去るときはまた声をかけてくれるそうだ。
三人を見送って、閉店まで奥の部屋で待っておこうかなと思っていたのだが……。
「あの、何をしているの?」
セリーナが俺の胸元に顔を近づけて、くんくんと匂いを嗅いでいる。
「……少し、他の女の匂いがする気がして」
「それは気のせいだろ。セリーナ以外の女には触れてないし」
「本当に何もしていませんか? 多少は話も聞こえていましたが、誘われてましたよね?」
「なんにもしてないって。な、スラミ」
うんうん! とスラミが上下に揺れる。
「そうですか……。なら、よかったです。
前も申しましたが、しばらくはわたくしだけを愛してくださいね。他の女を抱くのはそれからで」
「……わかってるって」
「でも……ラウルがあの三人と奥で話している間、ずっとそわそわしてしまいました。辛うじて仕事のミスはありませんでしたけど……」
「そっか。ごめん。俺にとってはセリーナが一番大事だから、それは安心してよ」
「……スラミさんよりも?」
「あー……」
スラミは相棒として一番大事。スラミとセリーナを比べることは難しい。
俺が答えに迷っていると、セリーナが首を振る。
「いえ、申し訳ありません。比べられるものではないですよね。どちらもかけがえのない存在……。それでいいのに、少し、欲張ってしまいました」
「……スラミも大事なんだ。すごく。五歳の時からずっと、スラミが俺の心の支えだったから」
「そうですね。でも、この先の生涯は、わたくしもラウルの支えになりたいです」
「……うん。頼むよ」
思わずセリーナを抱き締める。それだけで胸がいっぱいになり、抱き締めるだけじゃ収まらないものを感じる。まだ店は閉めていない……のだが、スラミがぽよんぽよんと跳ねて出入り口に向かい、クローズの看板をドアにかけてくれた。空気読めるスライムっていいね。
まぁ、勝手に店を閉めているが、こっちの人は何時から何時までときっちり時間を決めて勤務しているわけではない。多少早めの店じまいは誰にも咎められない。
抱き締めながらセリーナの甘い香りを堪能し、柔らかな髪をさわさわと撫でていると。
「……流石に、ここで最後までするのは気が引けます」
「じゃあ、キスだけ」
セリーナの顔を持ち上げ、柔らかな唇にキスをする。自然と二人の唇が開かれて舌を絡ませあい、深く深くお互いを感じ合う。何度も繰り返してきたことだけれど、セリーナの繊細な部分に触れるとやはりとても興奮する。重ねた部分から繋がって一つになればいいのに、なんて念じながら、お互いの敏感な部分を擦り合わせる。
キスを終えると、うっとりした表情でセリーナが見つめてくる。
「……奥にいきましょう」
「だな」
奥に行くと、セリーナがまたくんくんと鼻を鳴らす。
「……他の女の匂いがします」
「うそー? 全然わかんないや」
「まぁ、いいです。ここは元々色んな人が出入りするお店ですし。でも……今は、わたくし達だけの場所にしてください」
「……他の誰も寄せ付けないくらい、恥ずかしい感じに染めちゃおうか」
「それでもいいですよ? 部屋中に染み付くくらい、濃厚にしてください」
セリーナが艶然と微笑んで、再びキスをしてくる。そのまま少しずつ動いて、小さなベッドへとたどり着く。狭いけれど、密着感が興奮を誘う。
「気分的には、避妊なしでも構いませんよ」
「そういうのは先に結婚してからな」
「結婚してくださいますか?」
「むしろ、他の誰かと結婚するビジョンがないよ」
「嬉しいです。……わたくしの全部を、もらってください」
「了解だ」
気づけば、机の上には避妊具が十個ほど置いてある。流石にそんなにはできないよ、と呆れるが、どうなるだろう。
「ラウルさんが好きすぎて、おかしくなりそうです」
セリーナの言葉にも欲情して、俺はしばしセリーナ以外の一切を忘れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます