使い道

 七個使った。

 ようやくお互いに満足して、俺は裸のセリーナを乗せてベッドに寝転がっている。裸で抱き合うって本当に心地いいね。

 

「……ちょっとやり過ぎたかな?」

「……わたくしこそ、だんだん際限がなくなってきてしまっているようで……。ラウルさんも上手ですし……」

「セリーナが素直に色々教えてくれたからなぁ。こうしてほしい、って言ってくれるから、上達も早いんだよ」

「改めて言われると恥ずかしいですね……。わたくしも、上達してますか?」

「うん。すごく」

「そうですか。それは嬉しいです」


 セリーナが一層俺の首元に顔を寄せてくる。その頭を撫でてやると、嬉しそうにぎゅっと抱き締めてきた。最高だね。他の女を抱くことなんて本当にあるんだろうか? と疑問思えてきた。


「……ずっとこうしていたいですね」

「確かに。でも、ソラも放っておけない。ごめんな」

「それはわかっています。それに、そうやってソラさんのことを忘れずにいる姿が素敵だと感じます。わたくしのことを大事にしてほしいですが、すぐに他のものに気をとられるわけではないのは良いことです」

「……うん。でも、セリーナのことも、一生大事にしたいと思ってるから」

「はい。宜しくお願いします」


 そうしてしばしまったりしていたのだが、そろそろ日が暮れてきた。暗くなる前にソラの元に帰らないと。

 二人でのそのそと動きだし、服を着る。セリーナの裸体が隠れてしまうのを惜しみつつ、帰り支度をしながらセリーナに問う。


「ところでさ、セリーナって、もし大金を手に入れたらやりたいこととかある?」

「大金ですか? 避妊具が売れて、それからどうするかという話ですよね?」

「うん。そう」

「わたくしは……薬を無償提供できるようにしたいですね。必要な人に、必要な薬がきちんと行き渡る。それがわたくしの望みです」

「なるほどなぁ。それ、いいな。ってか、ごく自然に、自分のことじゃなくて、誰かのことを考えられるのっていいよな」

「……わたくしは、ラウルさんがいれば他のものは特に欲しくありませんので。もちろん、衣食住が充足して普通の生活ができるという前提で、ですが」

「そっかー。そんなこと言われるとまたしたくなるわー」

「しますか?」

「いや、流石にもう帰ろう。ソラが待ってる」

「そうですね。でも、急にそんな話が出たということは、先ほどの三人のお話は、そういう関連だったのでしょうか?」

「うん。なんか、貧しい地域に物資を送るとか、外壁のない村に外壁を作るとか、各地に学校を作るとかをしたいんだって。で、金がいくらあっても足りないから金を寄付してくれ、って頼まれた」

「へぇ、そんなことを。お金を持つと色んな人が寄ってくると言いますものね。それで、なんとお返事を?」

「協力してやりたい気持ちはあるが、即決はできない、って。セリーナとエミリアにも相談したかったからさ」

「そうですね。わたくしはともかく、エミリアには相談すべきでしょう。エミリアは広い視野でものごとを考えますから、参考になるはずです」

「うん。俺もそういうの期待してる。

 にしても、あの三人に協力したいとも思ったけど、セリーナにも協力してやりたいよなぁ。まぁ、流石に薬を無償提供するとそのありがたみがわからなくなるから、本人は三割負担とかがいいんじゃないかなぁ」


 日本の制度をそのまま流用しているが、多目に見てもらおう。


「確かに、無償提供してしまうのは良くないですね。薬を粗末に扱ってしまいそうです。貴重な薬草も適当に捨てられてしまうでしょう」

「うん。でも、セリーナのお店だけ三割負担ならできても、ある程度広範囲で実行するならとんでもない金が必要だよな。全然足りねぇや」

「どうしても高額になる薬だけ、少し安く手に入るようにするとかでもいいかもしれません。それで救われる人もたくさんいると思います」

「……だなぁ。大金って、あるならあるで色々悩みの種だな。エミリアはどうするつもりなんだろ? 大金を手にしてさ」

「わかりません。あの三人と似たようなことを考えているかもしれませんよ?」

「かもな。今度訊いてみよう」


 準備ができたら、店を出て自宅に戻る。ソラは起き上がってまた絵を描いていた。今日は花の絵が多い。セリーナの店に行ったからだろう。


「相変わらず上手いな」

「暇そう、って素直に言えばいいのに」

「そんなこと思ってないっての」

「どうせ暇人よ。そのくせ働く気力もない」


 相変わらずのそっけない態度。ま、これがまたソラにとってのリハビリなんだろう。

 そこで、セリーナが絵を眺めつつ言う。


「ソラさん。その絵、お店に置いてもいいでしょうか?」

「え? どういうこと?」

「とても上手なので、お店に置いて販売しようかと」

「売れないでしょ。こんなの」

「わたくしでしたら買いますよ。だから、試しに置いてみてはいかがでしょう?」

「……そりゃ、描き散らかすだけであとは処分するしかないから、好きにしていいけど」

「ありがとうございます。明日から早速置いてみますね。全部お預かりしても?」

「……待って。全部はダメ。失敗作は置かないで」

「わかりました。置くものはソラさんが選んでください」

「うん……。ていうか、薬屋なのに、絵なんて置いていいの?」

「わたくしのお店ですから、何を置くかはわたくしの自由です」

「……あ、そ」


 ソラが、テーブルに散らかった絵の中から、良いものを選別し始める。拒絶はしない辺り、本人としても、綺麗に描けているという自負はあるのだろう。

 ソラが外に働きに出ることはまだないのかもしれない。が、こういう形でも仕事をできれば、本人の自信にも繋がるはず。これからの活躍に期待だ。

 ソラのことはさておき、俺は簡単に夕食の準備。俺とセリーナが交代で夕食の準備していて、今日は俺の日だ。

 準備をしている間にセリーナがトイレに行った。残念ながら水洗ではないのだが、一家に一個ちゃんとあるのは素晴らしいことだ。そして、戻ってきたセリーナがやや気落ちしたような顔。


「どうかした?」

「……隠しても仕方ないので言いますね。少し急でしたが、生理が来ました」

「あ、なるほど」


 俺と付き合いはじめてから、セリーナが生理になったのは二回目。生理用品もまともなものがない、というのを知ったのはセリーナの一回目の生理が終わった頃だった。

 なお、ソラは痩せすぎの影響か生理が止まっているらしい。セリーナから間接的に聞いた。本人は楽だというが、それが決して体によいことではないと俺だって知ってるので、不安ではある。が、回復はもう少し時間がかかるだろう。


「あのさ、ちょっと見てほしいものがあるんだけど」

「なんでしょうか?」


 俺は、スラミと共にひっそりと開発した生理用品を二種類、タンスから取り出してセリーナに提示する。片方は、見た目は細めの青いソーセージのようなもの。スラミは性質をいじれば水分を吸収することができるので、それをタンポンのような形に成形したのだ。イメージは乾燥ワカメに近いかも。もう一個はナプキン型で、薄いシート状。下着に貼って使う。


「……これは、なんでしょう?」

「生理用品。スラミで作ったんだけど、水分を吸収するんだよね。こっちの棒状のは中に入れるやつで、シートのは下着に貼る。まぁ、イメージはできるかな? ただ、使い心地は正直わからない」

「水分を吸収……」

「それだけでもかなり過ごしやすくなるんじゃないかな、って。どうかな?」


 セリーナが手に取り、振ったり引き伸ばしたり。


「ちょっと、試してみます」

「うん。改良するところがあったら教えてよ。たぶん対応できるから」

「わかりました」


 セリーナが別室に行き、すぐに戻ってくる。手にはタンポン型が残っているので、シートを使っている様子。


「どう?」

「最初は少し違和感がありましたが、すぐに慣れます。脱脂綿などを使うよりはずっと使いやすいです。その……エミリアではありませんが、これは売れます。全世界の、おおよそ半分の人が買い求めるでしょう」


 セリーナが小さく溜息。何故か呆れられてる気がする。


「……なんか、まずいことしたかな?」

「いえ、ただ、どうしてこう、無自覚にとんでもないことをするのかな、と。まぁ、明日エミリアに話しましょう。泣いて喜びますよ」

「そう、なの?」

「泣くのは大袈裟ですが。あ、いえ、本当に泣くかもしれませんね」


 やれやれ、とセリーナがもう一度溜息をつき、食卓へ。もうちょっと喜ぶかと思ったのだが、意外と便利グッズでもなかったのだろうか。

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