誘い
「ちなみにだけど、メア達からすると、俺にはどちらかというとヴィリクと組んでほしいんじゃないか? 稼ぎとしては、ヴィリクの方がいいと思うぞ」
契約金も桁が違うし、今後の稼ぎも三倍以上。途方もない金が必要なメアからすると、俺にはヴィリクと組んでほしいはず。
「単純な稼ぎで言えばそうだろう。ヴィリクは油断ならない相手ではあるが、あれで商人としてはまともな方だ。しかし……私はエミリアにもっと台頭してほしいとも思っている。
つい最近まではただの八百屋の店主だったが、エミリアは力を生かす場があれば大きく活躍できる人材。ラウルのおかげでようやくチャンスを掴んだのだ。応援したい」
「そっか。メアとしても、とにかくひたすら金がほしい、ってわけでもないわけね」
「そうだな。ヴィリクのような一部の人間だけが社会を動かすのではなく、もっと多くの人が活躍できるようになってほしい。それは、私達が金や物資をばらまいただけで実現できるわけじゃない。エミリアに限らず、一人一人が精一杯己の力を発揮してこそ実現できると思う」
「……そっか。いい考えだと思うよ」
いい考えを持つだけではどうにもならないことはいくらでもあるだろうが、メアの周りには、メアのために力を尽くしてくれる優秀な人材が自然と集まってくるんじゃないだろうか。苦手な部分を上手く補ってくれて、メアの理想実現を手助けしてくれそうだ。そういうカリスマ性を有しているように思う。俺も、できるかぎり力になりたいと自然に思い始めている。
ひとまずここで本題も終わり、メアも一仕事終えた感じで表情を緩める。
「まだろくに交流もないうちから急に金の話なんてしてすまなかった。だが、話している感じ、私も安心したところがある。ラウルは大金を手にしたところで己を見失うことはなさそうだ。そもそも金に関心が薄い」
「まぁ、俺は金よりも女がほしいタイプだから。あ、女って言っても、金で手に入る女じゃなくてさ」
特に、こっちに来てからは女のことばっかり考えていた。それが、セリーナと恋人同士になるという形で充足されて、とても穏やかな気分だ。金はもちろん必要だが、セリーナ以上に価値のあるものなど思い付かない。
「なるほど。ある意味それは安心だ。……しかし、この場合、私達が狙われるのかな? 金が欲しければ体を差し出せ、と?」
メアがどこか挑発的な視線を寄越す。俺なんて最近脱童貞したばかりのにわか非童貞だから、美女に強い視線を向けられるとドキリとしてしまう。
「……俺にはセリーナがいるんで。っていうか、そういう風に金で相手を従わせるとかも好きじゃないんだよ」
性奴隷を買おうとした件については、ひとまず置いておくけれど。
「そうか。しかし、そっちがその気なら、試してみるくらいはいいと思っているぞ?」
「は? なんの冗談?」
「冗談ではない。唐突過ぎて混乱させてしまったかな?
私が一般的な恋愛観とは逸脱した感覚を持っているのは確かだ。恋愛とは別の感情で男と寝ることはあるし、女とも寝る。深い関係になったから寝るというより、深い関係になるために寝るということもなくはない。
冒険者として旅をしていれば、じっくり恋愛感情を育むなんてそうそうできることではない。そのくせ、この体はしっかり女の部分を宿している。
そのせいで、気に入った相手がいればとりあえず寝てみたくもなるんだ。ラウルからすると軽い女に見えるかもしれないが、これで誰でもいいというわけではない。誰でもいいわけじゃないから……気に入った相手を、より一層強く求めもする」
「……そ、そう、か」
メアの瞳が急に熱っぽい。セリーナがいなかったら、俺はメアの虜になっていたかもしれない。
「お、俺にはセリーナがいるから」
「そうか。残念だ。ちなみに、ルーもラウルと寝てみたいとよく言っているのだが、どうかな?」
「いや、だから、セリーナがいるんだってば。っていうか、なんで俺? 俺くらいの男、その辺にいっぱい転がってるだろ?」
ルーの方を見ると、ルーは不満そうに眉を潜める。
「そんなことないよ。まだ会うのは二回目だけど、ラウルには特別なものがあると思う。案外強いのとか、女の子大事にするのとかもいいけど、大金にも、目の前の美女にも我を失うことがないのは不思議だな、って思う。奇妙な純粋さが魅力的でもあるし、もっとラウルのことを知りたいとも思うよ。
恋人っぽいのがいるから前回は引いたけど、あのときから、本当はもっとアタックしたかったんだよ?」
「……お、おう。でも、俺とルーじゃ実力的に釣り合わないぞ?」
「実力であたしと釣り合う男って、人類のうちの何十人かの話でしょ? そんな少数の中から選びたくないよ。それに、恋人になるって、一緒にモンスターと戦えることが大切なわけでもない。ラウルがセリーナを好きになったのは、戦友になれるから?」
「んなこたないな」
「でしょ? だから、ある程度実力あればもうあたしはそれでいい」
「そんなもんか」
「セリーナがいなかったら、あたしが童貞奪ってあげたいとも思ってたよ。
それはもう無理だけど、できれば、たまに立ち寄ったときくらい相手してくれると嬉しいな。恋人とまではいかなくても、エッチ友達みたいな?」
それ、日本ではセフレって言うやつじゃないかな。こっちの貞操観念はわからんな。この二人が特別なのか?
「うーん……俺としては、いい話ではあるんだが」
「まぁ、ラウルはまだセリーナと仲良しみたいだし、もう少し時間が経ったらだね? それとも、セリーナは、恋人が他の女と遊ぶのは一切禁止するひと?」
「……禁止するつもりはないらしいよ」
「やったね! なら、そのときが来たら宜しくね?」
「……もし、そういう流れになるならな」
「なるなる。あたしがそうする。ラウルだって男の子だもん、いざとなったらその気になっちゃうって」
「……かもねー」
「そのときには、私もお相手願おうかな?」
ルーに続けて、メアまでそんなことを言い出す。かなり肉食系な女子なのね。
少々飽きれ、最後にチラッとフィラを見る。目が合った途端に赤面して俯いてしまった。
「……ウ、ウチは、そういうのは恋人とだけしたいので、期待しないでください!」
「いや、期待してないけどな」
「ウチはそんなに魅力ありませんか!?」
「そういう意味じゃなくて」
「女としては標準以上のものは持っていると思いますよ!? ダメですか!?」
「だからそういうことじゃなくて……」
なんだかフィラだけとてもウブな女の子に感じるが、やはりどこかずれている。このパーティー、大丈夫か?
そこで、ルーがまたニマニマしながら言う。
「言っとくけど、フィラはこれで結構スケベな子だからね? 男性経験が二回くらいしかないけど、妄想が逞しいからいつも一人でやって満足してるの」
「あ、そ、そうなんだ?」
これ以外にどう反応すればいいだろうか? フィラはわたわたと手を振っていて、茶化すのは可愛そうだ。
「ウチは別にそんなにやらしいことばかり考えてないけど、二人が夜中にもぞもぞしてるのとか見せつけられたら、ちょっと、その、ああ、もうなんでもない!」
勝手に自爆して赤面する姿が可愛い。けど、あまり大声は出さないでほしいぞ? セリーナに後で怒られてしまう。
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